短編

□寝込み「全松」:微裏
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今日は松野家へ宿泊に来た。チョロ松、トド松、十四松、私、カラ松、おそ松、一松。じゃんけんでこの順で寝ることになったが、正直ど真ん中で眠れるのは安心だ。
だって未だに他人の家で夜を過ごすのは不安だし、これくらい両側が固められていれば防寒要素もある気がする。

「‥‥じゃ、電気消すね」

立ち上がったチョロ松とふいに目が合う。が、すぐに不自然に逸らされ電気が消えた。
え、なんで逸らすの?


「ねえ、なんで逸らしたの?チョロ松」
「へっ!?」
「今目逸らしたよ」
「それはなあみい、チョロ松はお前に発情してるからだよ」

おそ松の凄まじい横入りに、チョロ松は勢いよく枕を彼に投げつける。図星ー?と煽るトド松に、チョロ松はぶんぶんと首を振った。

「とにかく寝るよ!」
「お前が暴れ始めたんじゃーん」

おそ松の文句を無視し、チョロ松は布団に潜ってしまった。もしかして、これ私の発言のせい?

考えることが面倒になった私は顔を布団の中に埋める。

静寂が続いたのも経ったの1分、瞼を閉じていた私に何かが触れた。そっと目を開くと、いつもは開いているはずの大口を閉じた十四松が、何度も指先で私の頬や鼻を触る。布団の中で顔を覗かせる十四松は、どこか天使のような可愛さを放つ。

「どうしたの」
「んー‥‥なんか気持ちい」
「ふふ、でもくすぐったいよ」

するりと十四松の顔が私がうずくまっている布団の中に入る。いや、さすがに一緒の布団の中に入ると、近いっていうか‥‥。

十四松の顔が、そっと私の顔に触れる。え、酔ってるのかな?いやでも顔はいつものような満面の笑みに変わってる。
近づく唇。と、その瞬間を断罪するかのように、誰かが十四松を外に引きずり出した。

ぱっと、部屋に明かりが灯される。


「おそ松兄さんチョロ松兄さん一松兄さんカラ松兄さん!!」
「おいおいなんだよ急にトド松‥‥」
「十四松兄さんが、みいを襲おうとしてる!」

一斉にどよめき、布団から跳ね起きる兄弟たち。十四松は少し頬を赤らめながら、目の焦点をあちらこちらにそらす。いや、私の方が赤面するよ!何なの今の!

「みい!俺の腕だっていつでも空いてるんだぞ」
「もう黙っててよカラ松はさあ‥‥」

肩を落とす私を、じっと見つめるおそ松。あれ、なんか、段々その口が歪んで醜いにやけに変わる。嫌な予感。

「やっぱりさあ、男の前で寝ようとするお前が悪いよな」
「は!?」
「こうなれば仕方無い。全員に1分だけみいに触れる時間を与えることにしないか?」
「黙れ変態!」
「お、いいなあそれ。平和な決断!」

おそ松にのるようにして、トド松はぺちぺちと手を叩いた。助けを求めるように周りを見たが、皆それに否定の意を示すような様子はない。いや、おかしいから!


「大丈夫だって、触るって言ってもセッ◯スとかじゃないから。ほら、お前だって可愛い野良猫が目の前にいたら何としてでも撫でようとするだろ?その原理だよ」
「もうあんたも黙っててよおそ松!」
「じゃ俺から‥‥」
「あんたは顔に欲が出すぎ!」

目が完全に変態の色を映していたカラ松をおさえながら、のそりと目の前に来た一松を見上げる。歪な叫びを上げるカラ松を無視し、一松は彼の首の上で座る。

‥‥すごい。カラ松を一瞬で黙らせた。

「じゃあ‥‥さっそくじゃんけんしようか」
「お、珍しく乗り気だねぇ、チョロ松兄さんっ」
「えへへ‥‥いや、別にそんな」
「何デレてんのよ!この変態野郎!」


結局彼らは私を無視してじゃんけんを済ませた。全く彼らの行動原理についていけず、そっと部屋を抜け出そうとした時、ぐいっと腕を後方に引っ張られた。私は引きつった顔のまま、天真爛漫の笑顔の十四松を見上げた。


「僕からだよ!」
言った途端、十四松は私を布団までおぶって飛びこむ。おお、と微かな歓声が耳に入る。
何なの?皆まだ酔ってんの!?

「よしよし」
「‥‥え」

だが、十四松は意外にも消極的な行動だけだった。さっきまで漂っていた野生の雰囲気が嘘のようで、ただ私の頭をすりすりと撫でるだけである。

「ごめんね、さっきの嫌だった?」
「‥‥びっくりした、けど」
「んー?」
「い、嫌では、なかったよ」
「はいしゅーりょーー」

ぐいっと引き離される私と十四松。まだ1分も経ってないんじゃないかと抗議しかけた十四松に、おそ松は睨みをきかす。

「なんか見てて腹立ったから、時間短縮」
「えーー!!酷いよ兄さん!」
「次俺だからどいて」

ぐいぐいと前へ迫ってきた一松。気持ちの整理がつかぬまま、私は部屋の隅に連れて行かれる。

「人前ではしたくない」

ぼそりと呟き、私と一松は正面を向き合った。


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