短編

□不可と望み「おそ松」:裏
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何度も何度も途切れる息。身体が激しく上下する程、乱れる彼女の黒い髪。涙で湿った、悲しみに暮れる二つ目。
肌と肌が擦り合う程、言葉にできぬ虚無と幸福が同時に俺を陥れた。




カラ松が初めて家へ連れてきた女の子は、あまりにも透明な面影で、純潔な少女の成り上がりのようであった。無論、兄弟皆が彼女に興味津々だったが、後からカラ松の想い人だと聞かされ渋々と諦めにかかったものだった。さすがに兄弟が本気で想っている人を横取りしようだなんて気が引けたのだろう。

初めは俺だって、そう思っていたはず。




運が良いのか何なのか、俺は彼女と家ではちあわせることが多くなった。どうやらカラ松が帰ってくるのを先回りして来ているらしい。


刻々と、俺と彼女の共有時間が積み重なった。馬鹿みたいなギャグも腹を抱えて笑ってくれるし、マッサージして、なんて言えば肩叩きを率先してくれたり。
で、一緒に笑ったり。
たまに泣いたり。
笑ったり。
笑ったり‥‥。





いつからだろう。

みい、ってカラ松に呼ばれたらさ、彼女はすっげー嬉しそうに笑うんだけど、その顔を見るのが堪らなく苦痛に感じるんだ。


さっきまで俺と駄弁ってたくせに、カラ松が帰ってきた途端ひよこのように飛び跳ねて、顔を赤くするんだ。


カラ松の想い人?

違う。
むしろみいの方が想っている。そんなの一目でわかるわけだから、余計にイライラしてくるっていうか、自分でも整理がつかなかった。




それから、みいを見る目も微妙に変わっていった。

彼女の笑顔が何よりも好きだったはずなのに、映るのは大して大きくない胸。尻。股間。背中。太もも。首。うなじ。唇。

貧弱そうで、俺がよく見るビデオの女よりもずっと色気がないはずなのに。

会うたび会うたび、みいの身体ばかり目に入るんだ。




カラ松って、もうみいとやったのかな?



自分でも笑えてくるような言葉ばっか、頭の中で駆け巡るんだ。


そんな葛藤が渦巻いても何とか我慢を貫き通してきた自分に、その日はあまりにもあっけなく訪れた。


「カラ松君とね、つきあうことになったの」


「でね、次からはカラ松君から私の家に毎日遊びに来てくれるって」


「でもたまにはまた、この家に遊びに来たいな」




湿っぽいわけでも悲しそうでも何でもなさそうに、みいはそう言って俺に笑っていた。

それから俺は自嘲するように、溜まりに溜まってきた今までの感情を整理した。




あーあ。
もう会えないんだって。


だったら、みいとやれるのも今のうちだよな。




黒い感情ばかりがつき上がり、次の瞬間には我を忘れて彼女の腕を引っ張っていた。






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