短編

□一番常識あるの僕だから
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「みいー」


片手に鎖、片手に今日の晩御飯の残り物がのったプレート。僕は兄さんたちの目を盗み、いつものように家を抜け、徒歩10分で着く空き倉庫へ入る。僕が勝手に設置した僕だけが所有する鍵穴に、今晩も錆びた金属片を差し込む。

真っ暗な闇に光がさす。照明をつけると、そこには縄で身体の自由を奪われたみいの寝顔。そっと扉を閉めて、僕はその黒ずんだ肌に触れる。

みいは目を覚ました。




「おはよう」


生気のない瞼に、鎖を密着させる。びくっと、冷たそうにして彼女は目を閉じた。可愛いなあ。



「‥て」
「ん?」
「出して」
「何を?」
「ここから、出してよ」
「何言ってんの。好きな人には尽くしてあげるのが普通でしょ?兄さんたちに狙われたらみいがまた可哀想な目に遭っちゃうよ」



長い論をぶつけ、またみいを黙り込ませる。持参してきた僕が食べたあとのハンバーグの残りかすを指で割り、一口サイズに分別する。

ふと、一週間前の出来事を思い出した。


キッチンで、おそ松兄さんと舌を絡ませあうみい。みいはとろんとした目で、ちょっと涙ぐんで、それでもおそ松兄さんはそんなみいを更に抱き寄せて。

これって性犯罪みたいなものじゃない?女の子が無理やりキスされてるんだもん。しかもそれが僕が密かに恋心を抱いていた相手だし。

好きな人がそんな目にあっちゃ、誰だって守ってあげようと思うだろう?

おそ松兄さんには悪いけど、それが世の男子が持つごく普通な感情なんだよ。

だから、またみいが他の男に襲われないように、僕がここで見守ってあげてるってわけ。




「‥‥私、おそ松くんが好きなの」



みいは優しいからさ、すぐこう言っておそ松兄さんを庇うんだ。




「またそれ?ほら、とりあえずご飯食べなきゃ」
「嘘じゃな」


ハンバーグを口に押し込み、指についたカスも舌で拭わせる。一日三食、これは健康のための絶対条件だからなあ。


「おいしい?」
「‥‥」
「まあ、母さんの料理は結構美味いからね。僕も一度、みいに手料理でも振る舞おうかな?」



みいは嬉し泣きかわかんないけど、いっつも涙を浮かべて僕から目をそらす。それがちょっとじれったくて、つい乱暴にハンバーグを詰めたりしちゃうけど、結果顔を赤らめて咳き込むみいなんか見れたらもう僕はご満悦だ。



「みい」


頬を舐める。首を舐める。


どんどん行為がディープ化するのは一般的な男性が所持する性欲があるから
であって、決して僕がおかしいわけじゃないんだよ?



「ほら、じっとしてて」
「嫌」
「彼女は彼氏の要望をきくのが普通だよ?」
「‥‥私は、チョロ松の彼氏なんかじゃないよ」





ぴきり。
何かの割れる音がした。

ああ、今のは結構効いたなぁ‥‥。

僕は鎖でみいの身体を更に縛る。




「早くここから出してよ!チョロ松のしてることは異常なんだよ!?なんでそんな平然とできるのよ!」




ぴき。びき。ぴきぴきぴき。



「‥‥けて!助けて、おそ」
「じっとしてって言ってるじゃん!!」



気がつくと、鎖で身体を巻かれたみいが後ろに倒れていた。顔をしかめながら、動けない身体を必死に捻らせる。かたくなった下半身をおさえて、僕はみいに馬乗りになる。


ああ、そんなに縛っちゃみいの生身がみえない。



「はあ、はあ、はあ」



息が荒れる。鼓動が高まる。そんな色っぽい顔されたら、僕、壊れちゃうよ。





「みい、大好き‥‥!」


至上にまで達する興奮。
突如、それを遮る闇に浮かぶ黒影が現れた。

見たこともない、みいのキラキラ輝く瞳がそこにはあった。








「何してんだよ、お前」
「‥‥おそ松兄さん?」





_____鍵は?
閉め忘れ?この僕が?





「おそ松くん!!」



兄さんが扉を全開にする。
兄さんが僕たちのリゾートへあっけなく入ってくる。
兄さんがみいを抱きしめる。
みいが、笑ってる。

おそ松兄さんに、笑ってる。






隅っこに用意してあった鉄パイプを手に取り、僕は息を殺す。
いくら兄弟でも、許せないよ。好きな人を強引に奪うなんて、ドラマじゃ殺し合いにまで発展するくらいだよ。だから、おかしくないよね?


ねえ、僕、

カシ
クナイ
ヨネ?




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