<リクエスト置き場>
□日和さんへ
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「僕が一番の常識人だからね」
得意げな顔でいつもそう呟くチョロ松。だが、そんな知識人を誇張する人に限ってかなり大きな欠点を兼ねているのだ。
にゃーちゃん、まあ大きく言えばアイドルオタクであるところはしいて許せる。ただペンライトを持って顔を真っ赤にしながら二度と結ばれることのない想い人の名を叫ぶだけ。
私が主張したいチョロ松の欠点はそこじゃない。
「みい〜〜」
チョロ松はある一定以上の酒を呑むと理性を忘れてひたすら外で寝転ぼうとする癖がある。
それだけじゃない。
こうやって私が懸命に公園のベンチにまで引きずってあげていると言うのに、私を誰と勘違いしてるのか、べたべたと御構いなしに触れてきたりするのだ。
やっとの思いで誰もいない夜の公園に着く。ベンチにチョロ松を座らせ、私も重い腰を下ろしてため息をついた。
もう時刻は11時を過ぎている。
「みんなにはちゃんと連絡した?」
「ん〜‥‥‥ふふ」
紅潮した頬をかき、チョロ松はしゃっくりをしながら頭を私の肩に置いた。
「ちょっと」
「‥みい‥‥」
「そんな声出してもだめだよ」
「みい‥‥」
「早くおそ松たちに電話しよ?ね?」
「みい〜っ」
「話聞いてる!?」
ぷつんと切れた私は、少し声を荒げてチョロ松の肩を叩いた。すると、ちょうど顔と顔が正面を見合う形になり、チョロ松はじっと私の目を見つめてきた。
‥‥ん?なんか‥変な空気‥‥。
次の思考を巡らす前に、チョロ松はその身体を私の方へもたれさせた。互いの唇が力強く重なり、私の目が自然と見開く。
‥‥いや、これはやばい!
「ねえっ、ちょ」
塞ぐように未だ押しつける。声を振り絞ろうとする私を見て、チョロ松はすっと片手を私の鼻に伸ばした。きゅっとそのまま摘まれ、完全に息ができなくなる。
私はチョロ松の腹に向かって蹴りを入れた。
「いっ‥‥たぁ」
「痛いもくそも、私が死ぬとこだったじゃない!?」
「だってみいがうるさいんだもん」
「‥‥はあ?」
とろんとした瞳で、チョロ松は退けられた身体を再び起こし、顔を私の首筋に押し当てる。
‥‥おかしい。
たしかに普段からかなり酒癖が悪いのは知ってたけど、ここまで悪いだなんて記憶に新しい。
そんな冷静な思慮もつかの間、突然鎖骨のあたりから唇の感触を感じた。ぎし、とベンチが軋むと、チョロ松の舌が首周りを這った。
思わず出てしまった声を聞き、にやりと笑う。
「‥‥かわいいね」
かあっと全身が熱くなり、私は一瞬にして全ての文句と反論の意思を奪われる。
再び触れ合う唇と、私の口内を撫でる舌。
チョロ松の指が、腹からすうっと下にすり落ちていく。
「‥‥やっ、それは、ダメ」
「何で?」
「だから‥‥っ」
ぐっと、その指に力が入り、私の身体が一気に強張る。
びびびび。
_____突然、二人の空間を崩す音。
「‥電話だ」
我に返った私は赤面を隠せぬままチョロ松を押しのけ、着信音が鳴り響く携帯を手にする。
おそ松、と書かれた画面を見て、ほっと息を吐く。いや、本当に危なかった。もしこのまま電話が来なかったら、来なかったら‥‥。
「みい」
初めて聞くような、甘い声が覆いかぶさった。後ろから私に抱きつき、何の躊躇もせずに私から携帯電話をすり抜いた。
がちゃり、とベンチの上へ落とし、混乱と緊張で動けない私を引き寄せる。
「僕だけ見てよ」
再び私の首に顔を埋めて、手のひらを上からそっと重ねる。
激しく鳴り響く心臓の音と、共鳴する体温の上昇。
ただ、酔っているだけ。わかっているはずなのに。
私は混沌した迷いの中、ぎゅっと瞼を閉じ、光を閉ざした。
(‥‥チョロ松、昨日のこと覚えてる?)
(ん?昨日がどうかした?)
(‥‥)
(‥‥)
(じゃやっぱり酔ってたんだね)
(あーまあ昨日いっぱい呑んだからね)
(本当はちょっと覚えてるって言ったら、怒るかな‥‥)