短編

□寝込み「全松」:微裏
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「出た出た‥‥これだから根暗男は怖いんだよぉ」
「おそ松兄さん、聞こえちゃう」


‥‥いや、聞こえてるよ。でも一松は根暗と罵られながらも、その手つきは変わることない。
さっきから私の頬を引っ張ったり、萎めたり、髪をわしゃわしゃしたり、耳たぶをさすったり‥‥

「ひ、ひゃ」
「「「「「ん!?」」」」」

咄嗟に出た声に、私は焦って口を押さえた。悪戯好きのような笑みが、うっすら一松の口角に浮かぶ。

「耳が感じるの?」
「いや、別に感じてな‥ひゃっ」
「おお、感じてる‥‥」
ぽつりと吐くカラ松。
「感じてない!ひっ」

爪先で耳たぶをくすぐる。するりと鎖骨までなぞる細い指先。ぞくぞくと肌が震え、身体が熱い。あれ、私、なんか変。


「あと30秒」
「はや」

チョロ松の言葉に文句を吐き、一松はさいごに私の首に顔を埋めた。おおおお、と高まる歓声。そのままくんくんと匂いをかがれる。
体温がヒートアップしたその瞬間、終了の合図が下された。同時に一松の顔が離れる。

「シャンプーの匂いする」

それだけ言い残すと、一松はそろりとその場を立つ。こいつ‥‥私はこんなにドキドキしたのに、何て冷めきった切り捨てをするんだ!


「あっれぇー?一松兄さん顔赤いー」
騒ぎ立てる十四松に、一松はそっぽを向く。
「お前の性癖やべーな!」
「うるさい」
「よーし、じゃあ次は俺の番だな。待たせたな!マイハニー」

一松との時間にぽーっとしていた私の前に、どかっと座り込むサングラスの男。白い光が反射したそれを外し、最高にきめた眼差しで私を直視する。
だが問題はそこから。そのキメ顔から少しも、微塵も動きを見せない。

「カラ松、時間もうはかってるよ」

チョロ松の後押しを聞くも、カラ松は動かない。そっとその肩をつついてみると、突然顔をぼんっと赤くし、咳払いをする。

「‥‥よし、じゃあ、触るぞ」
「別に無理しなくてもいいんだよ?」
「無理なんかしてない!ただその‥‥俺は一松みたいに、その、あんな繊細な触り方はできないっていうか‥‥」
「あーめんどくせー!さっさと抱きつけよほら!」

どん、と鈍い音をたて、おそ松に背を蹴られるカラ松。同時にその身体がずっしり私の上に覆いかぶさり、私達は叫ぶ間もなく吐息を間近で交差させた。
「‥‥‥」
みるみる内に赤面するのは私だけ。意外とカラ松はそれ以上顔を赤らめることはなく、きっ、と何かを決心したように鋭い眉を引き締める。

「‥‥触るって、キスも、入るよな」
「え、ちょっと待って」
「みい、目つぶれ」

どうしてか、突然男らしくなるカラ松に私は身体が硬直する。待っての合図もきかず、その唇が私の唇を塞ぐ。

熱い。さっきよりもなんか、身体が熱い。口の中で互いの舌が触れる。嫌なはずなのに、私、何で逃げようとしないんだろう‥‥。

「はーい時間切れだよぉ」

ひょい、と軽く兄弟たちに持ち上げられるカラ松。あ、あ、あーー!!と間抜けな悲鳴が遠くから聞こえる。どうやら一松に殴られているらしい。
何でカラ松だけいつもこんな扱いなのだろうか‥‥。
ふと日常のカラ松が思い浮かび、すぐにさっきの深く長い口づけがよぎる。
信じられない‥‥私、今、カラ松と、カラ松と‥‥。

「あーあ。あんなもん目の前でやられたら、僕だってその気になるよね」

トド松が私の身体を再び布団へ引き寄せた。ぽすっと、二人の身体が重なると、彼はニコニコと小悪魔のような笑みを浮かべて私を被り布団の中へ導く。

「と、トド松?」
「でも安心して。僕はあんな乱暴に女の子にキスしたりしないよ?」
「ら、乱暴ってそんな‥‥」
「‥‥ふふ、確かに幸せそうな顔してたね」
「別にそんな顔してないよ」

むっとしてトド松を睨んだ瞬間、ちゅっ、と短い口づけが交わされる。あっけにとられた私に、トド松はくすくすと笑って更に身体を寄せる。
二回、三回、四回と、止まることを知らずにキスが様々な部分へ落とされる。瞼、鼻、眉、頬、こめかみ、耳、首、鎖骨、谷‥‥

「谷間はだめ!」
「何で?」
「何でも何も‥‥んっ」

また出てしまった小声に、トド松は嬉しそうに口角を上げる。その顔にはどこかいやらしさが滲む。
再びトド松の顔が谷間に埋もれた瞬間、チョロ松の大声が響いた。

「しゅーーーりょーーー!!!」
「えーやだよ今からが本番なのに」

引きずられるようにして布団から出されるトド松。私は未だ布団に出ることができないまま、収束のつかない動悸に混乱していた。
‥‥何なのあれ。何なの何なの。どうしよう、ずっとこんなにドキドキしながら過ごさないといけないの?
っていうか、皆いつもとちょっと違うよ!これが夜の力‥‥?

ばさりと布団がめくられた。

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