PSYCHO-PASS
□Work.2
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その日は雨が降っていた。
コミッサちゃんが現場を囲み立ち入りを禁止していた。
そこを素通りしてテントがある場所へ行くと眼鏡をかけた、おそらく俺の上司となる宜野座監視官が鋭い目つきでこちらを見ていた。その手前にはスーツをずぶ濡れにした小柄な女性がいた。特徴的な髪型である。
テントの中へ入り、傘を畳んだ。
状況を見渡す限り今から逃亡中の潜在犯の捕獲へ向かおうとしていたようだった。
完全にタイミングを間違えた。
しかし、新米が挨拶しないのも失礼だろう。背筋を伸ばし、右手を頭につけて宜野座監視官とその他へ挨拶をした。
『こんばんわ。本日付で配属となりました不破 護(ふわ まもる)と言います。よろしくお願いします』
「君がもう一人の監視官か。配属初日から遅刻とは感心しないな。以後気をつけるように」
『はい、申し訳ありません。所で、状況から察するに今から逃亡中の潜在犯の元へ向かうつもりでしたよね?
俺は誰について行けばいいですか』
宜野座監視官にそう質問するとしばし考え、一人の男を指さした。指された本人は眉間にしわを寄せて至極嫌そうだ。
「では、不破監視官には狡噛執行官を任せる。こいつら猟犬を人だと思うな。どれも犯罪係数の規定値を越えた人格破綻者だ。常に注意を怠るな」
『了解です、宜野座監視官。では行きましょうか狡噛執行官』
「・・・あぁ」
少し怠そうに返事をした狡噛執行官は、俺をちらりとも見ずにドミネーターを持って先に行ってしまった。
狡噛執行官について行くと、入り組んだ路地をするすると進んで行ってしまうので慣れていない俺は、偶に小走りで追いかけていた。
『狡噛執行官少しよろしいですか?』
「なんだ」
『狡噛執行官と呼ぶのが怠いので、略してコウと呼んでもよろしいですか?』
「あぁ。なんとでも呼べ。俺は特に気にしない不破監視官」
『ありがとうございます。俺も言いづらいと思うので不破、もしくは護と呼んでもらって構いません』
「なら護と呼ばせてもらう」
コウは目を細め少し笑った。
《ジジッ)・・・こちらハウンド4。対象発見》
《こちらシェパード1。ハウンド4そのまま待機》
《りょーかい。でも人質の女の子が持ちそうにないっすよ?どうします、俺だけで行っちゃいます??》
《・・・よし、しくじるなよ》
《りょーかい!!っ・・・!!》
《縢何をやっている!》
《パラライザーが効かねぇ!!奴さん興奮剤か何かキメてやがる!!》
どうやら縢執行官は犯人を逃したようだ。
『行きますかコウ』
「あぁ護。こっからのほうが先回りできる」
『おぅ』
犯人より先回りするためコウ案内のもと、犯人が来るであろう区域のポイントを絞ってあたりをつけた。
予想はドンピシャ。
向かうと常守と征陸執行官が犯人を追い詰めていた。ただしドミネーターを持っていない状態で。
『あちゃー・・・いい感じの囮になってるな』
「都合が良い。監視官、発砲する許可を」
『許可する。人質の女の人は狙うなよ』
「分かってるよ」
コウは打った。
その瞬間、何も当たっていないのに男の身体は内側から膨らんで、上半身は破裂し血肉となった。下半身だけが倒れた。
「きゃ、きゃああアアアァァァ!!!」
人質の女の人がとうとう限界まで来てしまったようだ。目を見開いて全身で恐怖を表していた。
「もう大丈夫。落ち着いて、貴方を助けに来たのよ!」
常守が明るく話しかけるが女の人の震えは止まらない。むしろ酷くなっていた。
「い、いゃ・・・やめてぇ・・・」
「・・・?っ!」
不思議に思った常守が見たのは。女の人へドミネーターを向ける征陸執行官の姿だった。常守は咄嗟に征陸の腰を掴み発砲を邪魔した。征陸は振りほどこうとしたが離れることは無かった。
その間にコウがドミネーターを構えて逃げた女の人を追っていった。俺も追う。
「い、いゃ・・・来ないで・・・来んなよ!!!来るな!!」
女の人は錯乱していた。もう正常な判断が出来なくなっている。
コウはドミネーターを構えて打とうとしたがそこへ待ったがかかった。
常守だ。
「狡噛さん、やめてください・・・その人は被害者でっ・・・!」
「シビュラはもう社会に必要ない人間だと判断しているが?常守監視官」
「でも、でもっ!こんなの・・・こんなの間違っています!狡噛さんやめてぇええ!!!」
コウは倒れた。常守がパラライザーで打ったのだ。
この後、常守が女性を説得したが宜野座監視官によって気絶させられ、更生施設行きとなった。
「こりゃ、とんでもねぇ新人が入ってきたな・・・」
『そうですねぇ』
「いや、お前さんもなかなかだぞ?」
『そうですか?』
「・・・あぁ」
『雨、止まないですね』
空は曇天で、全身ずぶ濡れの今ではもはや傘は邪魔だな。