PSYCHO-PASS
□Holiday.4
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《おはようございます 不破さん》
『・・・おはよー』
普段の声からは考えられない控えめなテンションで起こしてくれたレオ。
一係専用ホロだが、俺が非番の時には体調管理や食事管理などをしてくれる。この部屋、ホロが付いていないからなぁ・・・別に不便ではないけど。
《昨日の総カロリーは1000kcalでした。朝食は300kcalがおススメです》
『スープとトーストだけでいい。後は任せる』
《了解しました》
レオが準備している間に洗面台へ向かいうがいと洗顔をしてしまう。普通ならここでヒゲを沿ったりするのだろうけど、あまり生えない体質なので週一の頻度で剃る。今日は大丈夫だった。
戻るとテーブルの上には注文通り、スープとトーストが置いてあった。
『何スープ?』
《野菜とミルクのスープです。肉類が無かったのでベーコンも少し入れました》
『美味しい。またレシピが増えた?』
《はい。不健康な不破をお世話していると知識が身につけられます》
『そりゃ良かった』
食事は基本的にハイパーオーツなのだが、レオは様々な所でレシピや各食材の美味しい仕込み方などを勉強している為、一般のホロの食事より美味しい。それに俺の好みの味もわかっている為、非番の時は毎回充実した食事になる。
『今日の予定は・・・特にないな。今なにか流行でもある?』
《えーと、今は「ドキッ♡あなたにだけ教える恋愛テク」という書籍が流行してますね。一千万ダウンロードですって。ダウンロードします?》
『却下。どうしようかなぁ・・・あ』
そういえばあの人の所に行くの忘れてた。何か手土産でも持ってお礼に行こうか。
『レオ、二十代女性に喜ばれるお菓子のトレンド出して』
《了解。トレンドの一覧がこちらです。一番人気は・・・》
『なるほど。じゃこれを取り寄せてもらえる?今から・・・一時間以内に』
《最優先で予約しておきます》
『ありがとう』
服は・・・スーツでいいか。準備も何も無いからお菓子が届くまで暇つぶしにTVでも観てよ。
それから一時間後きっかりに届いたお菓子を綺麗な柄の包装紙でラッピングして、公安局へ向かった。
公安局の廊下を歩いていると、前から眠そうに欠伸をしていた縢と会った。
「あれ?不破じゃん。お前今日非番じゃなかったっけ?」
『そー。でも分析室に用があるから来た。そうだ。縢、お菓子食べるか?一応一係の全員分あるんだが』
別の袋を縢に渡すと早速、中を見て目を輝かせた。
「おー美味そう!!ってこれ、めっちゃ人気のお菓子だよな??!何でも全部一人の人間が作ってるっていう」
『そうなのか?トレンド一位がこれだったからレオに取り寄せてもらったんだけど・・・』
「レオ様々じゃん。オレも今度頼んでみよーっと。じゃ、俺はこれ皆に配って来るな」
『頼む』
「へーい。バイバーイ」
縢と別れて目的地まで目指す。
分析室に着いたは良いけど・・・
『開けるの躊躇うな・・・』
扉の向こうから微かに艶かしい声が聞こえる。どうやらお取り込み中の様で入れる雰囲気ではない。
仕方ないので扉の邪魔にならない所に、メモを入れて置いておく。出直そう。
『失礼しました・・・』
足早にその場を去ったのは仕方ない。
『それにしても暇だ』
今日非番の人は・・・俺と征陸さんと六合塚さんだったよな。六合塚さんは・・・無理だから、征陸の所に寄ってみるか。
部屋の前まで来ると扉が開いた。
『あ、常守。おはよう』
「不破さん。おはようございます。征陸さんに御用ですか?」
『うん。常守は・・・事件?』
「はい。宜野座さんから呼び出されて・・・」
『頑張って。俺は非番だから』
「ありがとうございます。行ってきます」
『気をつけてー』
常守は笑顔で現場へ向かった。しばらく見送っていたが、完全に見えなくなると手を下ろし扉をノックした。
『征陸さん。入っても良いですか?』
「おー不破か。入れ」
ブレスレットをスキャンして扉を開けて入った。入ると絵具特有のにおいがした。
『チューリップですか?』
「俺の唯一の趣味でね」
征陸さんが描いているのは花瓶に入った二輪のチューリップだった。絵のことは全くわからないので、ただ、上手いなぁ位しか感想が浮かばない。
部屋を見てまず思ったのが内装。ホロを使っていないのか、初期のシンプルなデザインのままで所々にソファや絵画道具などが置いてあった。
「どうしたんだ?」
『暇だったんで、来ちゃいました。少し見ててもいいですか?』
「上手くねぇけど見たいなら好きなだけ見ていいぞ。そこのソファに座ってろ。今茶でも持ってくる」
『あ。ありがとうございます』
お茶を貰って征陸さんが描いている姿をずっと眺めていた。沈黙の中、絵具を塗るシャッシャッという音だけしていた。
心地いい静かさが眠気を誘う。見ていたいけど眠気が勝ってしまいそのまま寝てしまった。
「ん?おや、寝ちまったのか。しっかし、こいつもお嬢ちゃんも不思議な奴らだなぁ・・・」
征陸に不破にブランケットをかけてやりながらあどけない寝顔を眺めて、少し感傷に浸っていた。
息子もこんな感じの寝顔をするのか、と・・・
結局起こされるまで一度も起きなかった。