PSYCHO-PASS
□Work.5
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『おはようございます』
朝、一係へ入ると誰もいなかった。
『あれ。今日全員出勤の・・・はず』
まさかの全員ストライキ??
Prrrrr・・・
端末が、鳴った。常守からだった。直ぐに通話にすると、
《「あ、不破さん??全員分析室にいるので至急来てください。待ってます」》
『了解。すぐ行く』
ピッ
分析室、ね。
あぁ・・・そういえば昨日常守が宜野座さんに呼び出されて現場に行ったんだっけか。
『アバター乗っ取って運営するだけなんて、変なことする人がいるもんだなぁ・・・』
急いで分析室に向かうか。
『失礼します』
中に入ると俺以外の全員が揃っていた。どうやら俺待ちだったらしく、宜野座さんの視線が早くしろと語っていた。
「じゃ、全員揃った事だし報告するわね。
うちの可愛い鑑識ドローンが頑張った結果、葉山さん家の排水溝からはめでたく遺体の断片が見つかりました。
はい、拍手」
分析官の唐之杜さんが報告した。
おちゃらけて拍手を催促しているが、全員がスルーで若干すねた。唯一常守が拍手した方がいいのか周りを見渡していたが、俺と視線があって頷いたら小さくぱちぱちと手を鳴らせていた。
『・・・純粋だな』
「ありがとう、朱ちゃん。ノッてくれたのは朱ちゃんだけよ」
「は、はい!」
常守は困惑しながら笑った。俺と唐之杜さんは初対面だけれど心は一つだった。
「『可愛い(わねぇ)』」
「なっ!」
常守は真っ赤になった。
「コホン・・・」
宜野座さんからそろそろ静止がかかる。
「怪談だね。成仏できない幽霊がさ迷ってるってか」
「誰かが乗っ取ってるのか?」
「どうかしらねぇ?葉山は失踪する以前からふざけ半分で偽造IPを使ってたから」
「アクセスルートの追跡は?」
「やってみてもいいけどさ・・・なーんか胡散臭いサーバを経由してるからねぇ。まぁ間違いなく逆探知対策は興てるだろうけど。
下手に追跡かけると先方にも感づかれるよ」
唐之杜さんは一息ついて煙草を一本吸い始めた。煙が吐き出される。
「でもさ、葉山のアバターを使ってる奴は自分が怪しまれてるなんて思ってないと思うわよ。それってチャンスなんじゃない?」
「うまく誘導すればボロを出すかもしれない」
アバターを使っている奴がまだ何も知らないなら、接触すればボロを出すかもしれない。多少なりとも危険はあるが。
「よし、犯人に接触しよう」
「手としちゃ悪くないが・・・誰がやる?」
宜野座さんはちらっと目的の人物を見た。
案の定、見られた本人は固まっていたが。
タリスマンに接触するのは宜野座さんと常守の二人になった。まぁ常守はタリスマンと接触があるし、誰よりもバーチャル世界に詳しい為適任だろう。宜野座はその監視と言ったところか。
常守のアバターは本人をベースにクラゲのような印象を受ける姿をしている。
宜野座さんは10セントコインだった。喋ると中央にある顔の口だけ動く。飼っている犬のダイムから連想して選択したんだろう。10セントコインの刻印をダイムと言うらしいから。
俺はその間何しているかって?
もちろん、事件のことを調べていた。
と言っても犯人の割り出しだ。
犯人は葉山を跡形もなくこの世から消した。そしてアバターを乗っ取って現在も運営している。
俺達は、人気アバターを乗っ取るために葉山を殺したと考えているが、殺し自体も意味があったとしたら?
以前のタリスマンは空気の読めない発言や、釣り目的のおかしなイベントの開催など知能が低いイメージだった。
しかし、今のタリスマンは以前と比べてかなり印象が違ってくる。相談事にはユーモアも交えて受け答え、きちんと明確な目的があるイベントの開催。
これほどの差が出ても分からないものかと驚くばかりだ。
つまり、犯人は乗っ取ったアバターの理想の姿で運営しているということだ。
目的はアバター。
殺人の動機は・・・ファンとしての失望、怒り、自分ならもっと役を演じられるという傲慢。
だから葉山を流せるくらいの“粉々”にしたのだろう。
そしてまだ続く。
バーチャル世界で有名なアバターは三ついる。
一つ目は、メランコリア
二つ目は、葉山のタリスマン
三つ目は、スプーキーブーギー
一つ目のメランコリアは既に乗っ取られている。名義は老人だが本当は孫が運営していた。だがその孫は半年前に死亡している。けれど現在もメランコリアは活動している。以前以上に人気のアバターとして。
そして葉山のタリスマンも乗っ取られた。葉山自身が殺害されて。
大手のアバターが二つも乗っ取られているからこそ、残り一つのアバター スプーキーブーギーもとい菅原昭子は狙われるだろう。
『レオーちょっと調べてもらいたいことがあるんだけど、今いいか?』
《はいはーい。もっちろんですとも〜ご用件を伺います》
『スプーキーブーギーの運営者、菅原昭子の現在の住所を割り出してほしい』
《了解しました〜》
さて。
後は宜野座さんと常守が帰ってくればおおむね大丈夫かな。
デスクの上に常備してある飴の瓶から棒キャンディを取り出して口の中へ入れた。
『あ、イチゴだ』