NARUTO
□トリップ8
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イビキに抱き着いて離れなかった紫乃は、しばらく甘えるように頬をすりすりしていたが、急に真面目な声音になった。
「・・・イビキさん。私の今後はどうなりましたか?」
紫乃の意識が戻った時、イビキは記憶を失う前の立場を話していた。もちろんだが、暴行の事は言っていない。
「保護観察だ。あと3.4ヵ月は療養だろうが、退院したら里から住居と2.3ヵ月分の生活費を出す。後は監視が付くが好きに生活していろ」
「・・・そうですか」
紫乃は何か考えるように、窓から見える里を見ていた。これから紫乃は木の葉隠れの里で、独りで、しかも監視付きで暮らしていく。その不安は計り知れない。
だ が、お忘れだろうか?
坂下紫乃には“記憶がない”ことを。
今の紫乃は必要最低限の知識と、元からの人格しかない。あとはイビキから聞いた、捕虜だった事、拷問を受けていた事、今は保護観察の立場だという事。
つまり、不安は多少あるが、そんな気にしていないのだ。監視が付いていることは不満だが、住居とお金まで用意してくれた。家族もいない、家もない、知人がいるわけでもない。むしろ万々歳だろう。
「・・・と、なると仕事を探さないと駄目ですよね。いくらお金が2.3ヵ月分あってもすぐに無くなってしまいますし。あと家賃と、光熱費と、水道代もか・・
よし、頑張ろう」
切り替えがあっという間だった。元々考え方は現実的だったが、ここまでくると現実的というか、肝が据わり過ぎて、頭が弱いように見える。心臓に毛でも生えていそうだ。
なにはともかく、大丈夫そうだ。
火影室にて・・・
「坂下紫乃は大丈夫そうだ。身体的にも回復は順調だ。精神面も問題は無い」
「そうか。今後は監視に任せるとしよう」
イビキはまた報告に訪れていた。これはすでに毎日の光景なのだが、紫乃に関することはとくに事細かに報告している。
綱手は密かに、イビキは紫乃によからぬ思いをいだいているのでは、と思っていた。だから今、問いただそうとしたのだが・・・
「イビキ、お前・・・坂下紫乃に「ない」」
最後まで聞くことは叶わなかった。イビキは、いつものように無表情で、即答した。
「最後まで言わせんか!!」
「あるとしたら・・・
父性・・・だな」
イビキは口角を上げた。その表情は綱手すら少し羨んでしまう程の・・・
パタン
イビキが出ていった。
綱手はため息を吐きながら、椅子へ体重をかけた。くるり、と椅子をまわし、自分が守る里を見た。
「坂下紫乃・・・か。面白いじゃないか。拷問のプロフェッショナルとまで呼ばれるイビキに、あんな顔をさせるなんてな」
火影はにっ、と口角を上げ、目を爛々と輝かせながら笑った。