彩の物語
□転機
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雨風が降りしきる中、何かに押し潰されないように心を閉ざした邵可が帰ってきた。
あぁ、この日が・・・邵可を本当に“魁斗”にしたのか。
私は迷っていた。
紅家当主としては、玉環叔母様は目の上のたんこぶだろう。自らの復讐という自分勝手で、失敗した場合の紅家の不利益を全く考えていない。
玉環叔母様のやろうとしている事は、娘の百合姫を息子の譲葉として育て、次代の王に据えようとしている。百合姫は先王の血を受け継いでいる。その為、王位継承権があるのだ。
なんの障害も無く、百合姫が王になったとしたら紅家は彩雲国で現在よりもっと力を持つだろう。
だが、あの冷酷無慈悲な王が感づかないはずがない。事実、邵可を暗殺者としてよこしたのだから。
父としては、仮にも血の繋がった家族をその甥っ子に殺させるような所業はさせたくはない。いくら王からの命令だったとしてもだ。
ならば私は・・・
邵可は歩いていた。心を閉ざし、ただ目標のことだけを考えて。
若い頃から今に至るまで、藍家・碧家を凌ぎ、当主随一の琵琶姫と名高った紅 玉環。かつての先王にひときわすぐれて寵愛された彼女の音は、密かに邵可へ継承された。
玉環と邵可の音は似ている。
大切なものを守る為に、どんな大勢の犠牲もいとわない。たった一人の為に、何十人もを犠牲にする冷酷さを持っている。
そうこうしている間に、邵可は玉環の部屋の前まで来ていた。襖を開けようとした時、なかから声が聞こえ、その声の主に思わず手が止まった。
『叔母様、踏み止まることは出来ないのでしょうか』
それは父の声だった。
いつもより声に硬さを含んだ、真剣なものだった。
「無論、無駄な願いよ。わたくしはあの愚王に一矢報いる為にあの子を産んだのですから」
『そうですか・・・』
玉環の悪を含んだ声が響いた。