鯉物語

□出逢い
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「鯉伴?」


気がつくと俺は振り向いていた。
聞いた覚えも無いが、それでもどこか懐かしい、その名前とそれを呼ぶ声。
忘れていた何かを思い出したように、次々と脳裏に「鯉伴」と呼ぶ人々の姿が浮かんでいく。
涙が頬を伝っていた。


肩を掴まれてハッと我に返る。
先ほどすれ違った時に名前を呼んだ、異様に頭の長い老人が目を見つめていた。


『……お、や…じ?』


俺はこの老人を知っている。さっき見た人々の中にもいた。いつのまにかそう言っていた。


「……おぬし名はなんと言う」


見開いていた目をゆっくりと閉じながらそう問いかけてきた。


『紅蘭です』


それだ、これが俺の名前。俺は断じて鯉伴では無い。


「紅蘭か…いい名じゃな。もう辺りは暗い…気をつけて帰るんじゃぞ」


そう言ってその老人は俺の頭に手を優しく置いたあと、向こうへ歩いて行った。
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