浅い眠り
□春を運ぶ人
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この病院は、季節ごとに花を変える
入院している患者に季節の変化を感じて欲しいとしている事だった
勿論、匂いに敏感になっている患者も居るため配慮して病棟にはプリザーブドフラワーで、香りがしないものを医局のカウンターに置いている
『こんにちは!』
『桜弥さん!私の癒し〜!』
下屋は毎回大袈裟な反応をして、桜弥と呼ばれる女性を出迎える
そんな下屋にも微笑みを絶やさない
『下屋先生、お疲れ様です』
そう言って、コトリと花を置く
それは、一足早く来た春だった
彼女は、季節を呼ぶ人...といつしか呼ばれるようになっていた
『しのりん...顔緩んでるよ』
『緩んでませんよ...』
本当は嬉しい癖に!と絡む小松をよそに回診に向かう
彼女の横を通った時、仄かな花の香りがした
回診が終わり、休憩に入る為に自販機に向かう
そこには彼女がいた
『...何してるんです?』
『あ...四宮先生、絆創膏の貼り替えです』
手を見ると、無数の絆創膏が貼られていた
花屋も水仕事だ...特にまだ冬の寒さの残る季節はあかぎれや、ひび割れは付き物だ
『花屋も大変ですね』
『そんな事ないですよ!沢山の花に囲まれて、その花が沢山の人を笑顔にするのを見てると、私まで幸せになれますから』
本当に幸せそうに話す彼女に、思わず笑みが溢れた
『あ...四宮先生の笑顔初めて見ました!笑顔の方が絶対いいですよ!』
そう言って、彼女は、また!と言って頭を下げて帰っていった
この紅くなっている顔を見られずにすんで良かったと思う
『し〜のりん!見ちゃったよ〜!』
『彼女は四宮に春を運んでくれる人だったんだね』
ニンマリと笑う小松と、いつも通りの笑顔を浮かべるサクラ
けれど、彼女...如月桜弥なら嫌ではないと思った
春を運ぶ人
それは、俺が君に恋をした季節
これからは、俺だけに季節を運んで欲しいと柄になく想ったのは絶対に秘密だ
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