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□一話
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「ねぇねぇ、加々知さん」
「加々知さん、ここ教えて」
「えっと、好きです。」
小梅はうんざりしていた。
最近、こう言う言葉を聞く。
それも最初のテスト、中間テストの後からだ。
特に3番目の言葉。話をしたこともない人に告白されてビックリした。勿論断った。
「大変そうだね。」
隣からかけられた声に、そちらを向くと浅野と目があった。
「あぁ、浅野くん。うん、正直ちょっとね...」
「でも凄いよ。全教科満点取るなんて。」
「そう言う浅野くんだって、一問ミスでしょう?」
「あの問題は意地悪だよ。‘稲荷大明神の主神は2柱、宇迦御魂ともう一方は?’なんて問題」
「確かに、先生のお喋りで出てきただけだからね。荼吉尼天は。」
「正解者は数人だけ。皆が君を頼るのも好意を抱くのも納得だ。」
小梅はその言葉を聞いてため息をついた。
「不満かい?」
浅野の問いかけに黒板を見つめながら答えた。
「う〜ん、何て言うんだろう...。頼ってくれたり、好意を持ってくれるのは嬉しいよ?でもね、成績じゃなくて、中身も見てほしかった...」
小梅の表情を見て浅野は思った。‘彼女はこの学校に居るべきではない’と。支配する者と支配される者で成り立っているこの学校には。
「...浅野くん」
「何だ?」
浅野が考えに耽けていると、何かを閃いた顔をした小梅が素っ頓狂なことを言い出した。
「私、授業サボる!」
「......待て、血迷うな。冷静になれ。それはダメだ。」
「えぇ〜〜?良いと思ったのに?」
「ッ〜……時々、君の考えている事が理解し難いよ...。」
浅野は思い出していた。恐らく自分だけが垣間見ていた、小梅の奇行や発言を。
以前、歴史のノートを見せてもらった時、落書きがあった。多少の可愛らしいモノであらば、然程気にしなかっただろう。
しかし、書いてあったのは人物画。しかも、授業でやった歴史上の人物。その中でも小野篁は衝撃的だった。何故、天パなんだ。名前が書いてなかったら絶対誰か分からなかった。
時折口ずさむ歌は、‘通りゃんせ’や‘かごめ’等の童歌。また、歌い方に癖があり、それが絶妙な怖さを出す。寝る前に思い出したときは後悔した。
依然として忘れられない事がある。彼女と話しながら廊下を歩いていた時だ。すれ違った某教師の頭部を見て呟いた彼女の言葉。‘あ、ズラだ。’僕は、あの時の教師と目を合わせる事が出来なくなってしまった。
そこまで思い出して、浅野は考え直した。‘彼女は支配するもされるも関係なしに我が道を行くだろう’と。
「あ!」
「...今度は何を思い付いたんだ?」
「全教科オール80点取って遊ぶ」
「結局は遊びか...」
浅野は呆れきっていた。このアホを育てた親の顔が見てみたいと。
「まぁ、それぐらいなら問題ないだろう。良い子だから授業は受けてくれ。」
「......」
小梅は何を思ったのか、浅野の顔を見つめた。
「...なんだ?人の顔を見て。」
「浅野くん、なんだかお母さんみたい。」
浅野は深いため息をつき、机に突っ伏せた。
...一話終わり