『さよならをキミに』

□お仕事です!
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ジリリリリリィン、、、

ジリリリィン、、、


「、、、ん、、ふあぁ、、」



もう朝、、、?


「、、、ぜ、全然寝れなかったな」


父の夢を見るのは何だか久しぶりで、社会人となった今では母とも別々に暮らし始めた清香にとって、それはとても嬉しい夢だった。

千鶴と出会った嬉しさも、同時に感じた。

清香は本気で千鶴の恋を応援していた。それが思わぬ結果に終わり、苦い思い出として封印していたはずなのに、、、

「、、、」

ふと我に返って、一人言葉に詰まる。

当事者の斎藤と、まさかの再会を果たした清香は、今日も彼の働く病院へ出向かなくてはならなかった。

今日だけでなく、明日も、明後日も、その先も、、、

「、、、はぁ、、」

無意識のうちに軽いため息が出る。
ハッとして口元に手を添えながら、ふと、斎藤とて自分との再会を決して喜んでいるはずがないと思い直す。

「はぁ、気まずいなぁ、、、」




888 お仕事です! 888




「おっはよう!清香ちゃん」

昨日と同じく、ウキウキ気分の鈴鹿の笑顔が視界に飛び込んできて、思わず声が上ずった。

「うあ、はいっ、、、おはようございます」

「ちょっと、なになに?大丈夫?昨日ちゃんと寝られた?調子が悪かったら早目に教えてね!」

だってここは病院なんだから♫、と不思議と彼女に言われると、今朝からの疲労感が薄れていく。

「ありがとうございます、、、」

「というのも、今朝は週一の朝礼があって、私たち座ってる暇なんてないのよ。倒れてからじゃ遅いから、遠慮なく言わなきゃダメよ?」

「は、はいっ!」


そう言いながら鈴鹿は、清香を一階にあるホールに連れて来た。

「、、、わあ、、広い、、、」

「ここは、皆んなが使う大ホール。といっても、ホールはここだけなんだけど。ここでは、朝礼はもちろん、勉強会や患者さま向けのコンサートなんかも行っているの」

どうりでピアノがあるわけだ、と清香はホールの手前奥に置かれていたグランドピアノに目を奪われる。

「すごい、、、」

「このピアノは、使うときには調律師さんが来てくれるの。その手配は私たちがすることになってるから、覚えておいてね」

「は、はい」

そう説明しながら鈴鹿はマイクの準備を始めていた。清香も慌てて準備を手伝う。

朝礼の時間が近づいてきたのか、ホールにはたくさんのスタッフたちが集まってきた。
ほとんどのスタッフが白衣を着ているため、一見全員がドクターに思える不思議な感覚に襲われたが、一方でジャージ姿のリハビリスタッフやスーツ姿の事務スタッフたちもいて、ホールは賑わいを見せていた。

そこへふと、見覚えのある顔が清香の視野に入る。気だるそうな、心ここに在らずのような顔をして宙を見遣ったまま動かない、、、

「沖田、先生、、、」

彼はあのグランドピアノの閉じた響板屋根の部分に両肘をついたまま、右の手首で顔を支え、なんとも不機嫌そうに足先をトントンと小さく床に打ち付けている。

「あ、相変わらずだなぁ、、、」

と、清香が思わず苦笑いしていると、ふとした拍子に沖田と目が合ってしまった。

「あ、、、」

すると、沖田のすぐ後ろから、マイクの調整を終えた鈴鹿が、彼にそれを渡そうと近づく。

二言、三言彼らが何かを言い交わした後、笑顔で頷く鈴鹿が、清香の方へとやってきた。

「清香ちゃん!せっかくだからここで皆んなに挨拶してもらっても、良いかしら」

「、、、へっ?」

哀しいかな、この展開で「いいえ全然よくないです」、とは言えない清香の性格は、一体どこまで許してしまうのだろう。

「は、はい、、あははは、、」

チラリと沖田を見ると、無言のまま、がっつり笑顔で返された。

「くっ、、、」


沖田の笑顔に必死の笑顔で返す清香をそのままに、「じゃあ、よろしくね!」と肩を叩いた鈴鹿が、すでに朝礼の開始アナウンスをし始めていた。
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