『さよならをキミに』
□ご馳走です!
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週明けの月曜日は、いささか眠気がなかなか取れないもので。
清香は小さく欠伸しながらロッカールームにやってきた。
先日の土方からのメールを思い返しながら清香は、思わず顔がにやけてしまいそうになるのを抑える。
メールには、単語が並んでおり、解読すると、来年度の教科書が届いたから興味があれば見せてやる、といった内容だった。
清香がすぐに返信すると、
"土日引率。週明けに鳥に鯉"、とあった。
「せ、先生、、、国語の教師なのにこんなにメール弱くて大丈夫なの、、、わざと、かな?」
ただでさえ、パソコンが主流の教員仕事のはずだ。土方の作るプリントは確かに手書きのものも多いけれど、、、
パソコンと携帯じゃあ、なにか違うのかも、、、
相変わらず土方からのメールは、清香の腹筋を刺激してくれる愛嬌たっぷりの文字で。
おそらく清香なら分かるだろうと、変換放棄しているに違いない、、、
888 ご馳走です! 888
出勤したばかりの清香にとって、終業時間がこれほど待ち遠しい日は初めてだった。
が、そんな爽やかな朝も、夕方には一気に吹き飛んでしまう。
「清香ちゃん、今日ね、ちょっとだけ時間ある?」
「はい、何でしょう?」
明らかに申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせて、鈴鹿が清香に声を掛ける。
「あのねぇ、沖田先生がこないだのお礼に、晩ご飯でもどう?って言われてたんだけど、大丈夫かしら?」
「、、、こないだのお礼?」
「そうなの、清香ちゃんが作ってくれたスライド、かなり出来が良かったみたいで珍しく喜んでくれてて!しかもそれが、ご馳走してくれるみたいなのよ!でも、沖田先生って時間がなかなか取れなくて、今日だったらって話だったんだけど、、、」
「き、今日、、、ですか、、、」
清香の頭には土方のことでいっぱいになり、思わず鈴鹿の前ですら顔が引きつるのが分かる。
「伊勢エビのね、とーっても美味しいお店があるんですって!ふふっ」
鈴鹿は清香の反応に気が付かず、今回一緒に行くよう誘われているらしく、すっかり参加する気満々である。
「あの、私、、、」
即答しなかった清香の反応を、鈴鹿はやっと察知した。
「あらっ、やだ清香ちゃん、ごめんなさいね、今日はマズかったかしら?、、、じゃあ、それなら私から先生に伝えておくから」
とたんに悲しそうな鈴鹿の仕草が、清香にはとても申し訳なく感じた。
「あ、でも」
「いいの、いいの。沖田先生ってほんといつも思いつきだから」
そうは言うものの、先ほどのテンションと全く違って、覇気がない。
清香の終業時刻は午後6時、さらに土方が仕事を終えるのは、確かいつも9時を過ぎる。清香は少しなら大丈夫かな、と思い、鈴鹿に微笑みながら言い直した。
「あの、、、大丈夫です」
「え?」
「そ、、、そんなに遅くはならないですよね?」
百歩譲って、今日は月曜日だ。まさか夜通し飲み歩くワケではないだろう。
「本当?大丈夫?」
「、、、はい、よろしくお願いします」
とたんにヤッターと元気よく鈴鹿が喜んで、清香の手を取りその喜びをあらん限りに表現する。
よっぽど、凄いんだろうか、伊勢エビ、、、?
そんなことを思いつつ、清香は一足先に仕事を切り上げてロッカーへと向かって行った。