『さよならをキミに』
□密かごと 後編
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「、、、、、はぁ」
ここ数日、ほぼため息しか出ていないかもしれない。
様々な思考が堂々めぐりを繰り返して、清香の脳内はもはやマヒする寸前だった。
教授から話のあった夜、母に相談の電話をかけたが、母としては安定して続けられる仕事なら、という、病院か学校かどちらも話に出すことなく清香の意見を尊重してくれる答えだった。ありがたいことだったが、ますます清香は悩んでしまう。
次の日の夜、千鶴を呼び出して晩御飯を一緒に食べた。その時に、その話題を出すと、絶対正社員でしょ!と押し切られてしまった。曖昧な受け答えしかできなかった清香。彼女の中では、まだ悩みは深かった。
さらに次の日。朝から何も飲まず食わずの清香。一人ふらふらと街に繰り出し、いつもの本屋で美術本を読みあさっていた。
「、、、はあ、、」
いつもなら、少しは気持ちが安らぐところだが、今回はなかなかそうはいかないらしい。そんな時、ふと清香の携帯が鳴った。
「、、、っ、うんっ、、?」
知らない番号だった。
だが、大学の教授かもしれないと思って、四コール目くらいで電話を取った。
「はい、、、」
「、、、石田か?土方だが」
「え?土方先生?ど、どうしたんですか?」
「お前、今夜空いてるか?」
「え、、、え?」
「前に塾講師の話がどうとかって言ってただろ?あの件なんだが、、、」
「あ、え、ええと、、、」
「都合悪いなら、またで良い」
「いえ、その、、、私も、先生に相談したいことが、、、」
「、、、相談?」
「あの、何だか、説明しにくい話で、、、」
「あー、分かった。とりあえず、19時に駅前に来い」
「は、はい」
電話が切れたあと、清香はもう一度着信の番号を確認する。
「これ、、、もしかして先生の携帯?」
番号は成櫻中学のものではなく、一般的な携帯用の番号だった。
そう思うと清香の心は少しずつ鼓動を感じ始める。
約束の時間まで、まだ少し時間がある。
清香はもう少しだけ、街をうろついてみることにした。