『さよならをキミに』
□待ち人
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翌朝から、昨夜の憂鬱を抱えたままの清香は、数日後にある入職式の準備に追われていた。
「おはよう、清香ちゃん!昨日はあれから大丈夫だった?」
「はい、斎藤先輩がアパートまで一緒に来てくださって、安心して帰れました」
「そうなの?それは良かったわ!後で斎藤さんに会ったらお礼言わなきゃね」
「、、、はい!」
ニコっと笑顔の鈴鹿につられ、清香の心も少しずつ明るさを取り戻す。
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「ところで清香ちゃん、ひとつ聞いて良いかしら?」
「はい?」
「清香ちゃんは斎藤さんのこと、"先輩"って呼んでるけど、お知り合いだったの?」
「えっ、あ、、、ええ、あの、実は同じ中学校に通ってたんです」
「そうなの?」
「その、、、斎藤先輩は剣道部の部長さんで。私の幼なじみがマネージャーをやってたので、、、」
「そうだったの!」
「ここでお会いして、最初は驚いてしまって、、、言ってなかったですよね、すみませんでした」
「ううん、いーの、いーの。ちょっと気になっただけなの。知り合いなら好都合じゃない!斎藤さんには本当にいつもお世話になってるから。」
嬉しそうな鈴鹿の言葉が続く。
「それでね、早速で何なんだけど、入職式のとき斎藤さんに院内紹介してもらうことになってるから、清香ちゃん後で資料もらって来てくれる?」
「あ、、、はいっ」
「今日はサイバーの部屋かなぁ、、、もしかしたらMRかもだけど」
「あ、ええと、、、」
「おっと、ごめんごめん。はい、これ院内表ね、今日は色々と歩き廻って覚えてくれて良いから」
「ありがとうございます」
「そうそう、あと、ゆくゆくは清香ちゃんに院内図書の管理もお願いしたいの。スタッフ用の図書室は医局の隣なんだけど、患者さま用の図書室は二階の健康センターの隣だから、、、」
「ええと、、、?あ、はい、ここですね、、、」
「良かったら覗いてみてね」
「はい!わかりました」
そう言って、鈴鹿は清香をにっこり笑顔で送り出す。
清香は清香で、仕事に集中するべく、気を入れ直して企画室のドアを開けた。
外来の通路を抜けて、エレベーター横のガラス張りになっている中央階段を上っていく。
もうすぐ、新人さんが増えるのかぁ、、、
清香は"同期生"に会えるのが楽しみだった。
昨日の、鈴鹿たちも同期生の繋がりだと言っていたのを思い出す。同じ院内のスタッフ同士でも、同期生たちの繋がりは、とても心強いはず。
そのためにも良い入職式にしたいと思いながら、清香はじわじわとこの仕事の面白さを感じていた。