『さよならをキミに』

□休日はあなたと
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「清香ちゃん!おはよう、こっちこっち」


見慣れた駅前の噴水前で、鈴鹿の声が明るく響く。

「お、、、はっ、す、鈴鹿さん、すみません」

少し息を切らして駆け寄る清香が、鈴鹿の目の前で深々と頭を下げる。

「いーの、いーの」

さ、行きましょう、とウキウキ気分の鈴鹿はこなれた感じで清香の腕に手を回して、つい今しがた青になったスクランブル交差点へと歩み始めた。

「あの、せ、せっかくの、、、お休みにお呼び立て、しちゃって、、なのに、ち、遅刻だなんて、、私、、、」

軽く鈴鹿に引っ張られながらも、清香は先ほど言いかけた言葉を並べていく。

「ふふ、気にしないでって言ったでしょう。早速だけど、ほら、あのあたりのお店はどうかしら」

聞いているのかいないのか、鈴鹿はどんどん清香の手を引き、通りに並んだ、にいかにも女性らしい品のある洋服がたくさん見える店内へと足を踏み入れた。


「、、、うわぁ、、、」

相変わらず、今日もTシャツにジーンズの清香だ。彼女だけなら、正直、絶対に入れないお店だった。

「ここは結構品揃えが良いんだけど、割高なのよね〜。だから、参考程度に見てみましょう」

と小声で耳打ちする鈴鹿に、清香も思わず目を大きくして頷く。

「なるほど、、、」

入店早々、店員が近づいてきたがすかさず鈴鹿が反応する。清香とは違って店員と会話を楽しむ鈴鹿を見て、清香は思いきって誘って良かったと、心から鈴鹿に感謝した。







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「うーん、それにしても憧れちゃうわねぇ」

「ふふ、そうですね」


小一時間ほど鈴鹿の行きつけだというお店を回り歩いた昼下がり、清香たちは駅前通りの映画館隣にあるビルの中で、軽いランチをとっていた。

「幼馴染みのウェディング!あぁ、素敵だわぁ」

「ええ、本当に」

鈴鹿の言う"幼馴染み"とは、千鶴のことで、とうとう結婚することが決まったのだった。

彼女から報せを受けたのは、清香ですらほんの数週間前の話だった。


専門学校を出て花屋をしてみたいと言っていた千鶴だったが、高校の華道部で知り合った2歳上の和菓子屋の息子、藤堂平助と出逢い彼女の人生は大きく変わった。

高校卒業後は夢を諦めきれず一度は専門学校に進み、花屋にも就職することができたものの、藤堂の度重なる熱烈なラブコールによって、結婚することを決めたという。

大手製菓メーカーに勤めている藤堂はいづれは実家の跡を継ぐようだが、当分の間は千鶴と二人で暮らすらしい。


「人前式、、、?」

「うん、披露宴は親族だけですることにしたんだけど。平助くんがどうしても、友達にも紹介したいからって言ってて、、、」

小さな教会で式を挙げて、あとは近くのレストランで食事でもしようか、って言ってるんだけどね、、、

と徐々に千鶴の声が小さくなっていくのを、清香は少し苦笑しながら耳を傾けていた。

「私、本当に、呼べる友達が数えるほどしかいないんだよね、、、」

いつになく声のトーンが低い千鶴に、清香は優しく声を掛ける。

「いいじゃない、千鶴は呼びたい人を呼べば。数を合わせる必要なんてないじゃない」

「そ、そりゃあ、そうなんだけど、、、」

「それにしても、急だね、、、あと一カ月ちょっとじゃない?」

「うん、、、ごめんね。ゆっくり決めたかったんだけど、平助くんのお友達が色々と手伝ってくれて、、、せっかくなら6月にしちゃおうよって」


なるほど、ジューンブライドってやつね、、、


恥ずかしそうに話す千鶴。清香はとても幸せな気持ちになる。

「千鶴、本当におめでとう」

「清香ちゃん、、、ありがとう」

お互いに多くは語らなかったが、清香と千鶴は同じ気持ちだった。

お互いの幸せを、お互いが、心から願う温かい気持ち。幸せに満ちた気持ちにそれ以上の言葉は必要なかった。
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