フィルム越しから愛を

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「〜であるからして」

カシャ

「こうなるのだが……。」

カシャッ

「授業中にカメラは止めろ!天原。」
「何故ですか!?」
「逆にこっちが聞きたい!何故お前は授業中にカメラを撮っている!」
「生きがいです!
見て下さいよ、天火くんのあの表情。いつもは悪戯っ子のような雰囲気を醸し出しているというのに、体育のときはまた違った雰囲気を見せるんです。汗を流しながら走っている姿は青春そのもの!可愛いという言葉では表し尽くせません!先生、如何すればいいんですか!? 教えて下さい、この感情を!」

クラスメートからの視線が痛い。
構うものか、そんなもの慣れ過ぎてしまっている!
先生は妙に冷めた視線で外を見た。やだ、もしかして先生も天火くんを⁉

「ごめん、先生な……そんな感情、人生で一度も感じたことない。てか、お前が心底怖い。
何なんだよ、授業放棄して曇の写真撮って……なのに成績は無駄に良いし。新手の虐めか。」
「天火君を撮る為に、沢山勉強してますから!それにしても先生、お疲れですか?」

いよいよ先生が下を向いて震えだしたので、机にカメラを置き、ポケットからハンカチを出して先生に歩み寄る。
ただし、携帯を片手に。

「曇の何がお前を突き動かすんだよ。先生が疲れてるって分かってんなら、真面目に授業参加してくれ。」
「ノートはとってますから。
それに先生、天火君の可愛さが分からないなんて……うわぁ!お腹ちら見せ!汗を拭く為とはいえ、なんてファンサービス……レア写真ゲット。」

パシャッ

「……はい、没取。」
「ぁあ!!私の生きがいを取らないで下さい!」
「お前、放課後 職員室に来い。」

うわぁ、先生ったら青筋立てちゃって……そんなに怒ることですかねー。私はただ欲望に忠実なだけじゃないですか。あー、可愛い。男の子なのに何でこんなに可愛いの!?


──────


「牡丹!部活の事で聞きたい事があるんだけど、今いいか?」
「はい、大丈夫ですよ。」


天火君は剣道部主将。
これがまた格好良いんだよ!牡丹はマネージャーだから、偶に天火君が放課後にある部活の予定を聞きに来る。
天火君は可愛いし格好良いし、牡丹は美人だし……非の打ち所がないがない!さっすが美男美女。

え、牡丹をライバル視?
ないないない。こんな凡人と牡丹のような才色兼備が争ったって結果は見えている。比べること自体間違いだ。第一、牡丹には比良裏という旦那がいる。
それに、フィルム越しから天火君を見るだけで精一杯だよ!
って事で一枚。

パシャッ

「……天火殿、宜しいのですか?アレを好き勝手させて。」
「アレとは失礼な!流石の陽ちゃんでも傷付いちゃう!」
「別にいいと思うけどな。陽、もっと近くに来て撮ってもいいぞ!」
「ま、誠ですか!?」
「おう、もっと撮れ!格好良いからな、俺は!」

では、と。恐る恐る一歩を踏み出す。これで天火君と私の距離は1メートル。
これ以上は近寄りがたいので、カメラをズームにする。

私みたいな凡人が天火君に近寄ったらバチが当たる。
それ以前に、これ以上近付けば私の心臓が爆発してしまう。

「まだ遠い。」

そんな私がお気に召さなかったのか、一気に詰められる距離。
もう彼と私の距離は20センチも無い。ポンっと頭に乗せられる手。

「ほら、しっかり撮れよ。」
「ぁ……あ、も……無理だぁあぁあ!!」

逃げ出した。
何なんだ!?いつも悪戯っ子で可愛いくせに、こんなときばかり男の艶を目立たせるような……私には耐えられない!
格好良すぎる。あんなの耐えられる筈がない!

「ぶわっははは!」
「……まったく、あんたも人が悪い。」
「だって可愛いだろ?あんな距離で慌てんの。」
「充分近かったと思いますが……まぁ、確かに。意外に純粋ですよね、彼女は。
さて、比良裏殿もついでに聞いていって下さい。今日の部活内容は」

三人はクスクス笑いながら会話を始める。
陽は屋上で蹲りながら、顔を赤く染めていた。

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