フィルム越しから愛を

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購買
それは学生にとって、いわば戦場と云っていいものだ。
強き者が人気商品をゲットし、弱き者は勝者のおこぼれしか手に入れられない。酷い時は何も残らない。

そんな戦場から今日、私は無事生還した。
きちんと商品を持って!

「クリームパンにメロンパンに焼きそばパン。……少し買いすぎた。」


身体をスイスイと滑らし、難なく購買のおばちゃんの前まで辿り着いた私はテンションが上がり、売れているパンを適当に買ってしまった。一つか二つで充分なのに。

とりあえず、教室ではなく屋上に向かおうか。偶には比良裏に牡丹を独占させてやろうではないか!
なんで良い奴なんだ、私。比良裏も少しは敬ってくれてもいいと思うんだ。
屋上に続く扉は立ち入り禁止で鍵がかかっている筈だが、あれぐらいの鍵を開けるくらい造作もない。

「……開いてる。」

人気の少ない階段を上った先には少しだけ隙間の開いた扉。
はたして この先にいるのは教師か、はたまた私同様ピッキングできる生徒か。
久々のスリルに胸を高鳴らせ、口元に笑みを浮かべながらドアノブを回した。

「……白子君?」
「……。」

柵のそばに座り込んで景色を見ている生徒。白髪と紫眼が太陽に反射してキラキラと輝いている。この綺麗な色を持っている人物は白子君くらいしかいないはず。
しかし、優等生な彼が規則違反?あり得ない。彼なら天火君とご飯を食べているはずだ。なら何故……。
その疑問はすぐに解けた。

生徒が此方を向いたからだ。
顔半分に巻かれた包帯。冷たい瞳。しかし白子君にそっくりな顔。
白子君に少しだけ聞いた事がある。双子の弟がいる、と。

彼がそうなのだろう。
白子君は滅多に学校に来ないと言っていた。白子君、君の弟は学校には来ていたけれど、正々堂々と規則違反をしていたよ。

「扉には鍵がかかっていたはずだが?」
「開いてました。」
「……締め忘れたか。」

酷く不愉快そうに顔を顰めた彼は、屋上から出ようとする。
そんなに私と同じ空間にいるのが嫌か!

そう文句を言おうとしたとき、盛大に鳴る腹の音。
私じゃない、とすれば鳴ったのは一人しかいない。

「お昼ご飯は?」
「……今から買いに行く。」
「何も残ってないよ……お一つどうぞ、私は要らない。」

適当に選んだクリームパン。男子なら焼きそばパンの方がよかっただろうか?しかし、クリームパンやメロンパンは譲れても、これだけは譲れない。
緊張の面持ちで、黙って彼の反応を伺う。

「……いいのか?」
「……うん。」

瞳を輝かせている……だと!?
まさかの甘党だったらしい。


──────



そのままパンを受け取って屋上から出て行くかと思われた彼は、何を思ったのか私の隣に座ってパンを食べ始めた。
何かを話すわけでもなく、ただ食べるのみ。
空気は殺伐としている。

爽やかな秋風がとても冷たく感じる。
寒い!

「……白子君の弟だよね。名前は?
あ、私の名前は##NAME2## 陽。よろしく。」
「風魔 小太郎。」

何なのこの子!心の壁が高すぎる。
何で白子君と苗字違うの?何で包帯巻いてるの!?何で眼帯!!?

聞けないことが多すぎる。怖いよ、小太郎君。私のガラスハートが粉々に割れそうだ。

「お前はあいつとはどんな関係だ。」
「白子君?生徒会仲間。
良い人だよ。いつもお茶を淹れてくれるの。」
「…そうか。」
「小太郎君はいつも此処に?」
「お前に答える必要があるか?」
「やだ怖い。反抗期⁉」
「……。」

反抗期は高校生の大半に起きうる事だからね。私、へこたれない。でも怖い!

あ、そんなに冷たく睨まないで。視線が殺すぞと語っちゃってる。串刺しにするぞって語っちゃってるから!

「寂しくない?一人でご飯。」
「別に。群れる方が疲れる。」
「よし、じゃあ明日からは私と食べよう。」
「人の話を聞け。俺といるとお前も独りになるぞ。」
「心配無く。校内全体で私は変人認定なんで。今更何をしでかしても皆、何も思わないよ。
私も最近、少し寂しかったの。小太郎君がいれば寂しくないね!」

小太郎君の瞳が少しだけ揺らぐ。
寂しかったのは本当。比良裏と牡丹の間にいると少し気まづかった。空気が甘い。
そして気付いてしまった。二人とも私といると一部の生徒から悪口を云われている事に。

案外、小太郎君と私は同じなのかもしれない。

「好きにしろ。」
「ありがとう!ならまた明日も屋上で。」

最後は諦めたように溜息をついた彼。新しい仲間をゲットしました。

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