翡翠とアメジスト3

□閑話(ドッキリお宅訪問)
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土曜日の午後よく晴れた日

「さて、今日は何をしましょうか・・」

大学院生を装っている沖矢だが実際大学に行っている訳でもないため暇を持て余している。

「空瑠も急遽依頼が入りましたし、帰ってきたらブラッと買い物にでも行きますか」

食材や日用品の買い物は時間が合えば二人で行くが専ら沖矢の仕事になっていた。

「空瑠は物欲がない人ですからあげるにしても思いつくものがありませんね」

独り言にしかなっていないが・・

沖矢は今日の予定を頭の中で考えながら書斎へ向かった。

一度入ると抜け出せないと言わんばかりに沖矢は書斎に入るとよっぽどのことがない限り書斎から出てこない。

とりあえず空瑠が帰ってくるまでという軽い気持ちで本を読んでいれば

‘ピンポーン’

来客を知らせるチャイムに沖矢は首を傾げた。

「空瑠は何かを頼んだとは言っていなかったはずですが・・」

言いながら玄関に向かい

「はい?」

ドアを開ければ帽子にサングラスマフラーを口元まで上げている謎の男が居た。

「・・・」

顔が見えない以上沖矢も反応のしようがなかったが

「いやいや久しぶりだね。沖矢君」

その声で誰かわかった沖矢はドアを開けその男を招き入れた。

「こんな所にいて大丈夫なんですか?優作氏」

そう、何を隠そうこの男はこの家の家主であり今はロスに居るはずの工藤優作だった。

「あぁ、問題ないよ。君のお陰で原稿は進んでいるが・・如何せん缶詰に飽きてしまってね」

あっけらんかと答える優作に沖矢は困った笑みを見せた。

「まぁ、今日はもともと空瑠に会いに来たのだが・・」

「空瑠でしたら依頼が入ったからと出掛けていますが・・」

「あぁ、靴がないのを見た時に気が付いてはいたが・・まぁ、ドッキリお宅訪問とでも思ってくれ」

ニコニコと笑う優作に沖矢はとりあえずリビングに案内した。

「おや、読書中だったかい?」

テーブルに置かれているシャーロック・ホームズの本を見て優作は申し訳ない表情をした。

「あ、いえ。もともと暇だからと読んでいただけですのでお気になさらず」

慌てて沖矢は言った。

と言うのも、一応居候させてもらっている身であると同時に溺愛している空瑠の父親でもあるため沖矢基、赤井は緊張しないわけがなかった。

「(正直に言えば狙撃の待機をしている時より緊張する)」

内心で冷や汗をかきながらなるべく失礼のない態度を取ることに努めていた。

「あ、すみません。飲み物も出さずに・・なにか飲まれますか?」

「あぁ、気にしないでくれ。だが折角だからな・・紅茶を貰ってもいいかな?」

優作の視線一つで沖矢は正直冷や汗が伝いそうになっていた。

「分かりました。少し待っててください」

「そんな緊張しないでくれ。私は君のことは気に入っているのだから。あぁ、それは有希子も同じか」

茶目っ気たっぷりに言う優作だが一瞬一瞬で見せる鋭い瞳に沖矢は緊張するなという方が無理だろうと思っていた。

「どうぞ」

一度キッチンに引っ込んだ沖矢はトレーに紅茶の入ったカップを乗せて持ってきた。

「あぁ、すまない。ありがとう」

優雅な手つきでそれを手に取ると優作は香りを楽しむように匂いを嗅ぎ口に含んだ。

「紅茶の淹れ方は空瑠に習ったのかい?」

一口飲むと優作はカップをソーサーに戻しながら尋ねた。

「えぇ。まぁ・・」

「何故分かったのかと聞きたそうだね。紅茶は淹れ方で風味や香りが変わるんだが、この味は私の好みでね。その淹れ方は空瑠が上手いんだよ」
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