3万hit記念リクエスト小説

□手を伸ばせば
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空瑠は捜査を終えて自宅へと帰って来た。

『ただいま』

「おかえり。空瑠、お疲れさん」

『ずっと本部に泊まり込んでたからね。本当は今日も一度着替えたら本部に戻るつもりだったよ。兄さん』

空瑠が兄と呼んだ人物は見た目はどう見ても7歳児だが・・

「飯出来てるから着替えて来いよ」

そう言って背を向けた小学生の姿の兄に空瑠は頷くと部屋へと向かった。

‘ガチャッ’

開けられた部屋の扉は数日家主がいなかったがそれでも綺麗にされていた。

『兄さん、片付けてくれてたんだ』

手早く着替えを済ませリビングに向かった。

「はいよ」

『ありがとう』

小学生の姿になった兄はその身長に四苦八苦することもなくご飯の用意をし向かい側に座った。

「ジェームズから聞いたぞ」

元、FBI捜査官の兄は組織に潜入していたがFBIだとバレてジンに例の薬を飲まされ命からがら逃げ出してきた。

その時にはこの姿になり兄のことを知っているのは妹の空瑠、幼馴染の“彼”そして上司だったジェームズのみ。

「“彼”が戻ってくるそうだな」

兄の言葉に空瑠は肩をピクリと動かすが特に何かを言うでもなく食事を続けていた。

しかしジッと空瑠を見つめてくる兄の視線に耐え兼ねた空瑠は食事を終えた皿を流しに運ぶと溜息を吐いた。

『戻って来たんじゃない。潜入がバレたの。私たちのせいで』

兄の言葉を訂正する空瑠に兄は苦笑した。

最近空瑠が本部に泊まり込んでいたのは潜入していた仲間からの情報で奴らの取引現場を押さえられると踏んでいたが捜査官のミスにより奴らは出てこず、逆に潜入がバレてしまった。

「あんまり根詰めるな。空瑠は俺と同じで一度集中すると周りが見えなくなるんだからな」

『ん、気をつけてる』

「ならいいが。俺としては早く幸せになって欲しいんだがな」

そう言って兄はキッチンから珈琲の入ったマグを持ってくると一つを空瑠に渡し向かいのソファに腰を下ろした。

『私の幸せはとりあえず父さんと母さんを殺した組織を壊滅させ、兄さんが元の姿に戻ればそれでいいかな』

もともと潜入していた両親もジンによって殺されている。

「それは家族の幸せだろ。個人的なものはないのか?彼氏とか」

呆れた風に溜息を吐く兄に空瑠はマグを両手で包むようにして持つが返答はしない。

「俺としては“彼”とヨリを戻して欲しいがな。俺のことも知ってるし」

そう言う兄に空瑠はマグをテーブルに置くとクッションに顔を埋めた。

『兄さんまで同じこと言わないでよ。正直戸惑ってるし返事なんか出来る訳ないよ・・私と彼はもう終わってるんだから』

「へぇ、向こうは終わったとは思ってないってことか?その様子だと」

ニヤニヤと笑う兄に空瑠はクッションにから顔を上げず

『兄さんのバカ』

とだけ返した。

「俺は空瑠のことを理解してくれる“彼”には好感が持てるんだがな。FBIきっての切れ者と言われる赤井秀一君には」

そう、空瑠の幼馴染であり元恋人はあのシルバーブレッドと言われている赤井なのである。

兄のせいで空瑠は本部で言われたことを思い出してしまった。
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