翡翠とアメジスト2
□残された声無き証言
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盗聴によって事件が解決したことが分かり警察も引き上げていった。
「さて、警察も引き上げたところで私は取り付けた盗聴器を回収に向かうかね」
『また、何か手がかりができたら連絡してください』
「そうするよ」
羅瑠と別れた空瑠がホテルを出れば丁度蘭たちの後ろを歩く形となった。
「人って変わっちゃうのかな」
蘭の呟きが後ろを歩く空瑠にも聞こえ
『私は・・こっちに来てから随分と変わってしまったな・・』
雪のちらつく空に視線を移し溜息を吐く。
歩みを止めていた足を動かせば前を歩く蘭たちが歩みを止めていた。
『?』
それに首を傾げると
「また泣いているのか」
『!』
蘭たちで姿は見えないがその声は間違えようのない赤井のものである。
「いけませんか?」
赤井の問いに蘭は目じりに溜まった涙を拭い強い瞳で赤井を見つめた。
赤井はフッと笑みを零し
「いや・・・思い出していたんだ。お前によく似ていた女を・・平静を装って陰で泣いていた・・バカな女のことをな・・」
歩いてくる赤井はその後ろにいた空瑠の姿に目を見開くが空瑠は今聞いた台詞が誰を表しているか分かり踵を返し路地に駆け込んだ。
『っ・・・分かっていた。彼の心に・・彼女がいることを・・助けられなかった・・彼女が・・それだけ強く心に残る彼女が!』
強く強く握りしめた拳を路地の壁に強く何度も叩きつけた。
自己嫌悪なのか何の感情かわからない何かに支配された空瑠の心に体に痛みは届かなかった。
だからどれだけ自分が壁を殴っているのかに気がつかない。
しかしそれもそっと包まれた拳とそのまま後ろから抱きしめられる体と
「空瑠」
と呼ばれるその声が届いてきた。
「今の台詞は撤回させてくれないか?」
それと同時に抱きしめる腕が強くなる。
『秀一・・さん』
「確かにあの台詞では明美を連想するだろうが・・付け加えるなら甘えることも頼ることも知らない不器用な彼女のことだな」
『ずるい言い方ですね』
「空瑠は本当に不器用だからな。あの台詞から俺の中にまだ明美がいると思ったのか?それで助けられなかった自分への自己嫌悪か」
『そうじゃないですか・・実際・・』
「前にも言ったが・・明美のことは確かに愛していたんだろうが・・その思いは今は変わっている。愛情よりも友愛に近い。だが、空瑠に向けるものは愛情そのものだが?伝わらないか?」
抱きしめられる力が強くなり空瑠は降参とばかりに強張っていた体から力を抜いた。
『最近・・会えていなかったせいもあるんでしょうけど・・やっと今、伝わった気がします』
「なら、今日はこのまま俺のところに来い」
『そうします』
そっと顔だけ後ろに向ければ目じりに溜まった涙を舌で掬い取られそのままキスをされた。
路地から出る前に壁を殴ったことで傷が出来ている手を取り赤井は眉を寄せた。
「帰ったらまずは治療だな。甘やかすのはその後だ」
『甘やかすって・・・何するんですか?』
「そこは空瑠のしたいことで構わないぞ?俺で出来ることはしてやる」
『って言われて私がすぐに思い浮かばないの知ってますよね?」
「慣れろ」
空瑠の言葉を一刀両断のようにバッサリと言い切った赤井に空瑠は頭を抱えたくなった。
『・・・・・思い浮かばないです』
「それだけの間があっても思い浮かばないのか」
路地を出てから手の傷に響かないように注意しながら腕を組んで自然と歩き出す赤井と空瑠だった。