翡翠とアメジスト
□夏休みをロスで
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{「よく、生きててくれたぜ。空瑠」}
頭に置かれた大きな手が、普段聞かない優しい声が、イリネスが見せる優しい眼差しが、空瑠には今まで縁のないものだったため少々戸惑う。
生きててくれてなど前の世界では早々なかった言葉だから。
{『ありがとう』}
それしか出てこなかった。
その場から逃げるように空瑠は射撃場を後にしてロスの家に戻った。
浮かない顔をする空瑠に有希子も優作も心配したが空瑠が話したことを聞いて見守るように微笑んだ。
「私たちにも敬語を使わなくていいんだぞ」
「そうね。せっかく家族なんだから」
嬉しいが・・空瑠にはそれは当分難しいだろうと頬を掻いて努力するとだけ伝えた。
シャワーを浴びて何となくNYまで来ていた。
日本ほど暑くないこともあって空瑠は薄手のシャツを羽織っていても居られる気温だった。
『(流石に半袖は・・まだ着れないよな・・)』
薄くなってきているとは言え未だに残る弾痕や手術痕はある意味人の印象に残りやすい。
空瑠はそれを避けていた。
目に付いたカフェに入り途中の本屋で買った本に目を通す。
多少ざわついているがそのくらい気にすることもなく本を読んでいたが
『・・・?』
ふと、ある店員の動きが挙動不審とまではいかないが随分視線が動いていることに疑問を持ち凝視しない程度に観察していればそのまま奥に消えていった。
『・・・(嫌な予感)』
こういう時に刑事の勘か、探偵の血かそういったものが騒ぎ出す。
本をその場に置きその店員が消えていった方を見つめていた。
そして客の一人がトイレに行くため同じように奥に行けば
{「うわーー」}
悲鳴が上がる。
素早く立ち上がった空瑠は人を避けながら悲鳴のした方へ向かえば腰を抜かす客がトイレの個室を指差していた。
中を覗けば射殺された遺体があった。
『(頭部に一発、即死だな。音がしなかったところを見るとサイレンサーか)』
遺体の様子を確認した空瑠は
{『客を外に逃がさないでください!店の中にいた人は何も触らないように!』}
凛とした空瑠の声が響き店員たちは慌ててその作業を始めた。
「警察には既に連絡済みですよ」
空瑠が携帯を取り出せば後ろからかけられた声に振り向いた。
「失礼、貴女のような女性が率先して現場検証を行っているとは思わず・・イギリスで探偵をやっている白馬探です。よろしく」
『白夜空瑠です』
「空瑠さんも探偵を?」
『普段は助手ですよ』
幼馴染のと日本にいる新一の姿を思い浮かべ肩を竦めた。
「それで状況は・・」
『頭部に一発、即死ですね。被害者自身は拳銃の所持は見られませんし拳銃を持っていたような手の形はしていない。勿論、偽装工作したと言うなら話は別ですが・・』
「なるほど・・」
『死後硬直が始まりかけていますから死後30分といったところでしょう』
「素晴らしいですね。あなたのような助手がいる探偵が羨ましいです」
空瑠の述べたことを全てメモし白馬は感嘆の息を吐く。