Lethal Ability
□1話 パンドラの箱
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そんな出会いから動き出した歯車は、二人の時間を加速させた。
不思議な出会いを遂げた二人は、時間の流れに乗るように、沢山の話をした。
どうやら、オレンジ色の腰まで伸びている長い髪の毛に、赤い瞳をしたテトラという少年は、外界の貴族の息子で、庭を散歩していたところ、封鎖された地下へ続く道を発見し、扉を見つけたらしい。
扉には石が積んであり、テトラはそれをどかして扉を開いたんだという。
通りでロイズが開けなかった訳だ。
テトラは貴族故に忙しく、たまにしか遊びに来ることができず、ロイズのもとを訪れる事は少なかったが、訪れるたび、ロイズと楽しそうに話をしていた。
可愛らしく囀る鳥の鳴き声の真似をしたり、地下に生えている植物に実る木の実を食べ比べしたりした。
そんな時間を繰り返すうちに、テトラは家にいる時間よりもロイズと遊ぶ時間の方が楽しく感じ、次第にテトラがロイズのもとへ来る回数は増えていった。
しかし、そんなテトラが突如、ある日から全く遊びに来なくなった。
ロイズは「忙しいのかな」と思っていたが、どうやら何か胸騒ぎがする。
気のせいだといい。
ロイズはそう思って何度も何度も一人の夜を過ごした。
それからしばらく時はすぎて、テトラが遊びに来た。重い足取りに楽しさを感じさせない表情、そして彼は神妙な顔でこういうのだ。
「家族にバレた。ここは僕たちの家の敷地だから追い出せ、って…」
テトラの手が震えている。
それが怒りからくるものなのか、悲しみからくるものなのかロイズにはわからなかった。
「そっか」
震えるテトラの手を握りロイズはふわりと笑う
「なら、出てく。」
「!?」
はっきりと聞こえた言葉に驚きを隠せなかったのか、テトラは目を見開いて相手の顔を見上げる。瞳には困惑の色が隠せていない。
「世話になったな。…俺さ、外の世界は厳しいだろうけど、興味あるし…出てくのは仕方ないもん。俺が敷地内に居座っていたから悪いんだ。」
ロイズが少し眉をたらして、悲しそうに「サヨウナラ」と唇で刻む。
テトラはその時、世界が真っ暗になったように感じた。
遠のくロイズの背中と足音が、自分を置いてけぼりにされるようで妙に寂しくて。
「待って」
いつの間にか背中を追っていた。
「僕も行きたい」
真剣な眼差しのテトラ。ロイズは想像もしなかった言葉に驚き絶句している。
「僕は貴族なんて世界に縛られて、自由な世界も、友達といる未来も、何もない。あるのは、家が継いできたくだらない建前だけなんだ」
何も口を開かないロイズに向かってテトラが真っ直ぐとした目で言い放つ。
その言葉は、貴族として生きてきたテトラの心の闇が見えた気がして、ロイズは返す言葉を見失っていた。
「僕はただ生きてることが幸せだとは思わない。生きることが保証されて、成功する人生が用意されて…そんな人生が幸せだなんて思わない。」
テトラはふと目を伏せる。そして自嘲気味に小さく笑った。
「贅沢だとは思ってる。でも幸せって十人十色だよね。なら僕の幸せだってあってもいいと思うんだ」
そして、ゆっくりロイズの方を見る。
「僕は、誰かと…心の許せる友達と、厳しくったって、自分の力で生き延びて、全力で生きて、…死にたい。」
「…そう、君と。」
「死ぬまで人生を楽しみ謳歌したい。」
途切れ途切れに言葉を繋ぐ。
「僕の一生の我が儘…聞いてくれる?」
それは儚くも大きな一歩。
テトラは自分の人生を、自分の道を、歩き始めた。
「…うん」
ここから、始まる。いや、始める。
テトラはロイズの答えを聞くと、頷いて満面の笑みを浮かべた。
その返しにテトラの表情はみるみるうちに明るくなる。ロイズがくすりと笑うと、テトラは一瞬首を傾げた。
そして、何かを思い出したかのように「あっ」と声をもらした。
「実は、家宝の箱を持ってきてるんだ」
テトラはポケットから小さな箱を取り出す。
「家宝!?良いの?そんなもの…」
「良いんだ。何か大きな決断をする時、開けなきゃいけない伝統だから。…これで、全て断ち切るんだ」
箱を手に持ったテトラの声は真剣そのもので。
「……わかった」
ロイズが言えることなど何もなかった。
「開けるね」
「うん」
ゆっくり、指が箱の隙間に入り、箱の中の光が漏れ、箱が開く。
と、同時だった。眩い光が二人に射し、体にキラキラとした光をまとっては箱の中に吸い込まれていく。
突然の出来事に、二人が状況を理解するにはあまりに時間が足りなさすぎた。
「ロイズ!!」
「テトラ!!」
咄嗟に伸ばしあったその手は、握り合う事もなく、二人の距離は次第に遠のいていった。