Lethal Ability

□1話 パンドラの箱
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どさっ

暗くて不気味な場所にロイズは落下した。
どうやら廃墟らしく、近くにはひび割れた硝子の窓や、割れて残骸となっている硝子が
廊下の一面に散りばめられている。

「一体…ここは」

確か、テトラと家を出ようということになって、箱に吸い込まれて…

そこまで思い出してロイズはハッとした。

「テトラ!」

ロイズは親友の名を呼ぶ。
静かな廊下にロイズの声が反響し気味の悪い扉の軋む音にのまれていく。

近くにテトラはいないのか返事は帰ってこなかった

「なんなんだ…何だよこれ…」

辺り一面を見渡す。と、小さな人形が浮いているのがわかった。

「え…」

それは次第に大きく、大きく、大きくなっていって。
建物の天井を貫いたところで止まった。

「な、ん…」

ロイズは恐怖で身も動かなかった。
今、目の前で起きていることは一体なんだ。
あれは、一体何だ。
疑問がふつふつと脳裏に刻まれる。

すると、その人形はこちらを向く。

「っひ!!!!」

思わず声をあげる。
人形の顔は壊れていて、いかにも廃棄処分されたかのような容姿で笑っていたからだ。

その人形はロイズを確認すると、一層笑みを浮かべて

「ニンゲンのニオイだァ」

そう言った。

「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

何だ、何だ何だ何だ!!!!!!!!!

ロイズは本能のままに逃げ出した。廃墟から出て、森へ入る。周りを見渡す限り暗く不気味な道が続いている。

「誰かっっ……!!!」

助けをこうように絞り出した声を途切れさせる。
足に、植物と思われるもののツタが絡まっていたからだ。
刹那、ロイズは体を捻らせ受身をとりつつ地面に倒れこむ。

「いった…」

すった足を叩いて立とうとする。しかし

「オイツイチャッタ」

その時には既に目の前に人形がいた。

ロイズに手を伸ばし、食べようとしているのか、人形は涎を垂らして「ゴハン」と何度も言っている。

(テトラ…!!!!)

ぎゅっと目を瞑って必死に名前を呼ぶ。

(助けて…!)

ザシュッ

瞑った目の先で鈍い音。
もがき苦しむ人形の声が聞こえた気がした。

(何だ?)

いつまでたっても食べられないことに疑問を感じ、ロイズが目を開ける。

「…!」

そこには、緑の髪をなびかせた片目の男が立っていて。
手には大きな鎌を持っていた。

「あなたは…」

その鎌で倒したのか、崩壊していく人形を唖然として見ながらロイズはその男を見上げる
すると、その男はゆっくり近づいて、ツタを切ってくれた。

「あ、ありがとう…」

お礼をすると、男はしゃがみこみ、手を差し出してきた。

「…ふむ、君、この辺じゃ見かけない顔だねェ?流れ者…にしては装備もなさそうだし。…迷子?」

「えっと…」

突然話しだした男の手をとって立たせてもらう。

「俺はロイズ。話すと長くなるんですけど…」

「ふむ?」

おどおどと自分の頭を整理する。男はしゃがんだまま頬ずえをついて首をかしげている。

「…笑わないで、聞いてくださいね」

「…ふむ。」

真剣な眼差しで訴えると、男はキョトンとした表情で手の出ていない袖の長い服を膝に置いてこちらを見上げてきた。

「退屈しない程度に頼むねェ」

「あ、はい…」

とりあえず話は聞いてくれるようだった。
自分でも現状を理解していないなりに、ロイズは男に今までのいきさつと自分がテトラを探している事を伝える。

男は途中から神妙な顔つきになり真面目に話を聞いてくれていた。

「…って事で…」

「外の世界の住人サンかね」

「え?」

「…少々、自分の話にも付き合ってもらえるかねェ?」

「あ、はい」

片目の男は立ち上がってロイズの方を見つめた

「此処は君の思ってるとおり、箱の中の世界でねェ…こんな話がある。
魔力に恵まれし人間、箱開きけり…全ては終わりの始まりへと誘われん。」

目を見開くロイズのことは気にもとめず、男は話を続ける

「昔昔あるところに、伝説の勇者がいました。その勇者は危険と思われる魔人形(ドール)と呼ばれる、人々を喰らう存在を箱の中に封じたのです。そこから現実世界は平和になりました。」

魔人形。
ロイズは先ほどの人形を思い出す。

「しかし、箱の中でも世界が栄えていました。何故なら、魔力で作られたその世界には魔人形と、数人の人間がいたからです。そう、勇者は人間全員を助けることはできなかったのです。

ですが、残された人間たちは魔力に長けていました。なので、魔人形にも負けずに生活できる空間を作り上げたのです。
そうして、世界は二つに分かれました。平和な世界と、生きることに必死な死の連鎖の世界に。」

「………」

「まァ、おとぎ話って訳ではないよ。感じただろう?これは事実。実話だと」

くつくつと男は笑う。

「つまり君らは現実から箱の中へ、天国から地獄へヨウコソって事だねェ」

男は袖を揺らして、楽しそうにしている。

「オモシロイ!!」

「えっ」

男に手をとられる。いつの間にか男の手から鎌は消えていた。

「ここで歴史が動くんだねェ。そんな瞬間に立ち会えるなんて、なんて奇跡だ!」

「あ、あの」

次第に男のテンションが上がっていることに気づいたロイズは相手が何を考えているのかわからず、しどろもどろとする。
すると男はいいことでも思いついたかのような顔で人差し指を立てる。

「よし決めた、自分もその親友クンとやらを探すの手伝うよ」

「えええええええええええええええええ!!??」

急展開過ぎて頭がついていかないロイズはただすっとんきょうな声をあげるしかなかった。

「な、なんで!?」

「オヤ?嬉しいでしょ?それとも自分じゃ不満かねェ?」

「いや嬉しいですけど!!」

そうじゃなくて!!とロイズが言おうと口を開くと、男が一足先に口を開いた

「楽しそーだからねェ。」

「単純!!」

何かよからぬことを考えているのでは、と実は疑っていたロイズは、ついつっこんでしまう。
しかも男は本当に楽しそうに言うものだから嘘をついているようには見えなかった。

「単純とは失礼な若者だねェ」

「あなたも相当若く見えますけど」

そう、片目の男は見た目いってても推定18ぐらいであった。

「…そうかね。まァ良い、それより君、名前は?」

男は顔をしかめるもまた薄い笑みを刻んだ表情に戻り、首を傾げる。

「俺はロイズ。あなたは?」

「自分はユレイヤ。ぴっちぴちのオジサンだよォ」

「どっちですか」

「どっちに見えるかねェ?」

茶化すようにケラリと笑うユレイヤ。楽しげに両手の袖を横に振っている。

「はぁ…楽しそうですね」

「楽しいからねェ?人をからかうのを趣味に生きてる」

「良い趣味だなオイ」

じとり、相手に呆れたような目線を送る。
ユレイヤはそんな目線気にしてはいないようであったが。

「それより敬語はオカたくて苦手でねェ…普通に話してもらえるかい?」

ぽんぽんと話を切り替えるユレイヤ。

「あ、はい…あ、いや、わかった。」

それについていけずどもるも、ロイズはなるべく普通に返した。

どうも、この人と話すと調子が狂う…
そう思ってロイズはため息を一つついた。

「…そうだ、自分の住処に一度来てもらえるかい?」

「え?」

「色々話すこともあるし、他の子が自分を待ってるからねェ」

「そっか…まぁ、ここも危険だもんな、わかった。」

突然のユレイヤの言葉に驚くが、ロイズは承諾した。
今確かに色々話してもらった方が今後のためになるし、ここにいるといつ襲われるかわからないから
避難したいという気持ちがあった。

「じゃ、出発しようか」

「うん!」


こうして二人は出発した。終わりの始まりへ…。

---to be continue
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