Lethal Ability

□6話 人型魔人形
1ページ/3ページ


「ふ〜」

風に揺られながら目を伏せる。
今日は元魔人形が住んでいた城に行く日、今現在、城へ向かっているのだ。
そこにテトラへの手がかりがあると期待しているのか、ロイズは心なしかドキドキと心臓の鼓動を早めていた。

「そんなに楽しそうな顔出来るなんて君は呑気だねェ」

その様子を見ていたユレイヤがクスリと笑う。手には鎌を持っていて、いつでも戦闘できる体制だった。

「にしても、ムユウも連れて来たかったな…」

「馬鹿だねェ、ムユウクンが足でまといは嫌だって自分からおりたのに我が儘言わないの」

「ふぇーい」

ロイズは唇を尖らせて返事をする。
そう、ムユウは戦いになると足でまといになると言う理由でついて来なかったのだ。
魔人形が目撃された情報もあるため、得策と言えるだろう。

「無駄口叩くな犬っころども、早くついてこい」

雑談しているとスロジェルが振り返り、目を細めて睨んできた。
その口ぶりにユレイヤが少しムッとする

「年上には敬意を示すものだよスロジェルクン」

「お前年下だろ」

ぷりぷりとユレイヤが頬を膨らますも冷静にツッコミが入る。
その言葉にユレイヤは唇を尖らせた。

「体の成長が遅くてすいませんねェ〜自分はこれでも二十歳こえてますゥ〜」

「はいは…え?」

ユレイヤの言葉にスロジェルが固まる。
いや、スロジェルだけではない、前にいるクロスたちや、勿論隣にいるロイズも固まっている。

「…ああ、まーた冗談?そういうのいいから」

みんなの反応同様、少し苦笑しながらアルオスがユレイヤに言う。その言葉に返すようにユレイヤはにっこり笑ってきた。
突如感じた悪寒に汗を流すアルオスの肩に、ヴァキネルはそっと手を置いた

「…『殺すよ?』だそうだ」

「だからなんでわかるんだよ!!」

冷静に通訳するヴァキネルの方を向くアルオス。

「つか、なら…」

ヴァルガと知り合いでも別に不思議じゃねぇ。
そう言おうとしてアルオスはハッとして口を閉じる。
ユレイヤを探ってる事が感づかれたら面倒だからだ。

だがユレイヤはもう雑談に戻っていたようで、アルオスの話を聞いていない様子だった。
アルオスはホッとため息をつく。

そんな会話をしていると、大きな城についた。

「近くに寄ると思ってたよりデカいな」

クロスが呟く。

「戦いがあったってホントかよ?やけに綺麗じゃねーか…」

それに続きスロジェルが身を乗り出す。
ぐるりと周りを見渡すと、やけに生活感があり、誰か住んでいてもおかしくはない程に綺麗だった。

「こりゃ人型魔人形、住んじゃってるかもね。」

その様子に目を細めたアルオスがため息混じりに呟く。
その場にいたものはゴクリとつばを飲んだ。

「……」

しかし、ユレイヤだけは顔をしかめていた。
城の中を見据えて目を細める。
そして誰にも聞こえないような小さな声で「誰だ…?」と呟いた。


「ここからは別れて行動する。通信機はみな、つけているな?」

そんな雰囲気の中、ヴァキネルが言葉を発した。
みんなはイヤホンのように自分の片耳に入っている通信機ととそこから繋がるコードを見る。
内蔵マイクで声が届くという仕組みだ。

「なら班は決めたとおり、ロイズくんとユレイヤ、アルオスとスロジェル、私はクロスと探索して…」

「ちょっと待ってくれるかねェ」

「…なんだ?」

ヴァキネルが話している最中に挙手するユレイヤ。
表情はいつになく真面目な顔つきになっている。

「自分、前にも此処に来たことがある。」

「!!」

みんながユレイヤに目線を預けていると、ユレイヤがしっかりとした声で言い放つ。
落ちていた葉が風に吹かれてユレイヤを隠すように通り過ぎる。
葉は風に乗ったまま高く舞い上がり、静かに落ちた。

「そりゃどういうことだ」

沈黙を破り反応したのはスロジェルだった。ユレイヤを睨みつけている。
ユレイヤは視線をスロジェルに返し、いつものような不思議な笑みを浮かべた。

「……言葉の通りだが?」

「何で来たことがあるかって聞いてんだよ!!」

くすくすと笑みを浮かべるユレイヤの胸ぐらを掴み、スロジェルは荒々しく声をあげた。
ユレイヤは動じていないようで、掴まれたままスロジェルを見下した。

「それは彼から聞くと良い」

そう言うと、ユレイヤはアルオスの方を見た。
つられてスロジェルもアルオスを見る。

「…っお前訳わからねぇこと…!!」

「止まれ」

「っ…!」

スロジェルが手に力を入れたところでヴァキネルがスロジェルの腕を掴む。

「でもヴァキネルさん!」

「まぁ待て、今ここで争う暇はない。」

「……」

胸ぐらを離し、スロジェルが俯いて大人しくなったことを確認すると
ヴァキネルはユレイヤの方を向く。

「…それで、何が所望だ?」

「話が早い奴は嫌いじゃないよ」

「それはどうも」

たったこれだけの言葉でも、周りに緊迫感を与える二人の雰囲気にのまれるような感覚に陥る。
既にここからお互いの探り合いが始まっていると思うと、ロイズは緊張してこの場から離れたくもなった。

「少し調べたいことがあるから少しの間一人にしてくれると有難い」

ユレイヤが口を開く。
「何故一人でなければならないのか」、「そんなの許される訳がない」
ロイズの頭の中にいつくかの疑問や言葉が浮かんでくるが、何故かその言葉たちを口に出す事は出来なかった。

そんなロイズの事はそっちのけで
ユレイヤの発言に対し、ヴァキネルは少し顔をしかめていた。
暫し沈黙があった中、ヴァキネルは口を開く。

「ではロイズとクロスに組んでもらおう。私は一人で大丈夫だ」

「…決まりだね」

「ヴァキネルお前…!」

許しが出た事に驚き、アルオスはヴァキネルの方に近づく。
するとヴァキネルはアルオスのみに聞こえるように小さな声で話した。

「お前も察している通り、奴は何らかの形で人型討伐戦の際、その場にいた可能性が高い。」

「……」

「あの強さなら破壊者にいたか、あるいは…」

「『人型魔人形』だと」

こくり、ヴァキネルが頷くとアルオスはため息をつく。

「厄介な事になりなすった…。ほんで?一人にする理由は??」

「…それでも、私は何故か彼を信じずにいられないんだ」

「は?」

ヴァキネルが苦笑する。それに対してアルオスは間抜けな声をあげた。

「馬鹿な話だろう。彼とは会って間もない筈だというのに…私は彼には何か考えがあると思っている。」

目線を下に向け、眉を下げる。
ヴァキネルは自分の考えを自分自身がわかっていないらしく、困り果てた顔でアルオスを見上げた。
アルオスはこのような様子のヴァキネルは見たことがなく、目を丸めて困惑している。

「…おいおい、随分とらしくねぇんじゃないの?」

「お前もそう思うか?奇遇だな、私もだ」

「奇遇だなってお前な…」

アルオスが顔をしかめていると、ヴァキネルが俯き、苦笑をもらした。

「…すまない、自分でもよくわからないんだ」

「……。」

そんなヴァキネルの姿を確認すると、アルオスは乱雑にヴァキネルの頭を撫でた。

「っアルオス…?」

さすがに驚いているようでヴァキネルは顔をあげる。
困惑したような顔で眉を寄せて見上げてくるヴァキネルに、アルオスはぶはっと笑った。

「やっぱらしくねェなぁ、でもま、たまにはそういう顔も似合うぜ?」

「は…」

にっと笑みを浮かべるアルオス。

「ほんと、お前をそこまで狂わせるなんて何モンだよアイツ。」

「おい…?」

それに対してヴァキネルはまだちんぷんかんぷんのような顔だ。
少しアルオスを睨みつける。

「わりぃわりぃ。そうそう、さっきの。…どうこう理由付けるより直感的でわかりやすいわ。お前の勘って結構当たるし、いんじゃね?」

軽い口ぶりでアルオスが言い放つと、ヴァキネルはその発言にキョトンとしている。
そしてクスッと微笑んだ。

「お前は相変わらずだな」

「だろ?」

アルオスはにひっと笑うと、頭を撫でていた手を止める。
その行動でヴァキネルは撫でられていたことを思い出し、首を傾げる。

「そう言えば、何故撫でた…?」

本当に理解していないらしく、不思議そうに見上げてくるヴァキネルに、アルオスは苦笑した。
そして

「…何か近寄りがたくて、お高い存在って感じで、本当に人間なのかって疑うくらいお前が完璧すぎて距離感じてたんだけどよ…。そうやって人間らしい今のお前になら、距離もなんもねぇ、普通に触れる気がしたんだ。」

と、いつになく真面目な声色で呟いた。
すると、少し沈黙してしまい、アルオスは慌てだした。

「てかほら、いつも触ってるっちゃ触ってるけどよ、なんてーの?こう…お前を実感するっていうか、普段触れねぇとこにも踏み込めそうなほど近く感じたって言うか…」

「ふふっ」

「っ?!」

オロオロと言葉を繋げるアルオスの様子を見たヴァキネルは、おかしくてつい笑ってしまった。
アルオスは驚いて固まる。すると、ヴァキネルが手を伸ばして、アルオスの頭を撫でた。

「いつだって触れに来て構わんよ、私は完璧なんかじゃない。取り繕っているだけで、いつもアルオス達と同じ場所に立っているよ。」

「ーーーっ」

柔らかく微笑むヴァキネルに、アルオスは口を噛み締めた。

この儚く消えそうな笑顔は一体何と例えよう。
ヴァキネルの笑顔から漂う、この感覚はなんと伝えれば良いのか。

…確かに、差を感じているのはある。
俺たちと一緒にいるべきなのかと思うこともある。

だがそんなことはどうでもいい。
何故ならヴァキネルは本人が言ったように、俺たちと同じ場所にいてくれるからだ。

先を行くことも多いだろう。
…それでも、見えない場所にはいない。
必ず俺たちが追いつけるような、そんな位置にいる。

だから、それよりなにより、俺が伝えたいことは…


その『取り繕い』が、本物のお前を見えなくしていること。


そこにいるって感じられる。
確かにそこにいる。

それでも、何故か確信が持てないんだ。
だから、俺は―‐―‐

確信が持ちたい。


アルオスはそう言葉にして伝えようとしたが、言葉が出なかった。

きっと

アルオスの言葉ではヴァキネルは取り繕う事をやめないからだ。

きっと

大きな覚悟と決断をして、取り繕っているからだ。

取り繕うことは悪いことではない、
寧ろ、世の中を生き抜くための上等手段だ。


アルオスの我が儘一つでその手段の理由に釘を刺すことは出来ない。

アルオスは自嘲気味に笑みを浮かべた。
確かにヴァキネルからの言葉は嬉しかった。

「ありがとな」

でも

「あぁ」

やっぱ、遠いわ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ