Lethal Ability
□9話 人型討伐戦
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――――――――――人型討伐戦決行日
「何か破壊者がこっちに向かってるんだけど」
城のてっぺんに登っている少年の人型が遠くを見据えて言う。
「エリスの第六感、また当たったみたいね」
その声を聞き、白衣を着た、黒髪で腰くらいまで髪の毛が長い女の人型が腕を組みながら返す。
エリスと呼ばれた一番小さそうな黒髪のツーサイドアップの女の子の人型は苦笑する。
「たまには、外れてくれればいいのにな」
悲しそうに呟いた女の子の人型に対し、淡い紫がかかったグレー、長さは腰より少し長く、外はねのくせがついた髪の毛をしたタレ目の人型が
「ほんとよね」
と呟く。
「何で来るんだろう」
てっぺんに登っていた人型が、飛び降りて空中で回転しながら地面に着地する。
「さぁ。我々に何か用なのかねェ?」
城内の柱にもたれながらユレイヤが首を傾げた。
その下でしゃがんでいるケルビムは欠伸をする。
「魔人形の事でも聞きたいんじゃない?」
むにゃりと眠そうな口調でそう言うと目を擦る。
その様子を見ては飛び降りた少年の人型が二人の間に入ってきた。
「僕たちに聞いたら早いもんねー、魔力暴走の事とか!」
少年はユレイヤに背を向けケルビムに言葉を返す。
ユレイヤは苦笑した。
「フレッグクンは嫉妬しいだねェ」
「してない!!」
ユレイヤの苦笑に返すようにケルビムに近寄った人型、さっきまでてっぺんにいたピンクのはねた髪の毛をした少年の人型、フレッグは勢い良く振り返った。
そしてそのままユレイヤを睨みつける。
「はいはい、その辺にしときなさいよ〜」
タレ目の人型がフレッグをなだめる。
そしてケルビムに近づいた。
「ケルビムちゃんはあたしのモノな〜の!」
そう言ってタレ目の人型はケルビムに抱きつこうとするが、本人に思い切り顔面を殴られた。
吹っ飛び隣の柱に衝突するタレ目。
「ライン気持ち悪い」
そうするとケルビムは青ざめてユレイヤの後ろに隠れた。
ラインと呼ばれたタレ目の人型がむくりと起き上がる。
「刺激的!でも自分の血の味は好みじゃないわぁ。やっぱケルビムちゃんの肌じゃないと!」
「そういうところもキモいよ、絡み方ウザイし。ていうか存在がキモい」
「いやん辛辣!ライン、ケルビムちゃんのこと嫌いになっちゃうぞ?」
ぷんっとぶりっ子風に頬を膨らませ、ちゃめっけアピールにウインクをするライン。
それに対しケルビムは至って真顔だ。
「イイ歳の男がやっても可愛くないよ」
「いやねぇ、体は男でも心は女よ」
「心は女でもキモい事に変わりはないから」
「傷つくわぁ」
ラインはぶーと唇を尖らせた。
長い髪の毛を揺らしてケルビムから足を背ける。
「…って戻るとみせかけての…!!ぶぐうっ!!!」
背けた後、勢い良く振り返り、跳びつつ抱きしめようと手を広げたラインに、その行動は予想通りと言わんばかりにユレイヤが足蹴りをかます。
ラインはずるずると地面に落下した。
「うちのケルビムに手を出さないでいただけると幸いなんだがねェ」
ユレイヤがラインの顔を踏みつける。
「んもう足グセの悪い子!!でも嫌いじゃないわ!!」
「自分は君が嫌いだがね」
ラインは踏みつけられてるにも関わらず、まんべんの笑みだ。
「落ち着いて。とりあえずエリスの予想を聞くわよ」
それを見た白衣の女の人型はジト目でラインを見つつ仲裁に入る。
話を振られたエリスはハッとして、考える。
「…ディーナ…」
そして白衣の人型の名前を呼んだ。
ディーナという人型は首を傾げる。
「何?」
「…フレッグと一緒にいつでも逃げられる場所から援護射撃できるようにしておいてほしいの…嫌な予感がする」
「!!」
エリスの言葉に、人型全員が固まる。
「って事は…」
ユレイヤが冷や汗を流して顔を引きつらせる。
「襲撃……。」
ケルビムは小さく呟いた。
その言葉に息をのむフレッグ。そして
「……何で僕たちが狩られないといけないのかな…」
と小さく呟くと俯いて唇を噛み締めた。
ラインはなだめるようにフレッグの頭を撫でると、眉を垂らしてほほえんだ。
フレッグが驚いていると、ラインは真剣な顔つきになった。
「一応あたしが交渉してみるわ。」
「ライン…」
ラインの発言に心配そうに顔を見つめるエリス。
ラインは顔をしかめた。
「っま、最年長だからこれくらいの役は買わないとねぇ。みんなは優しいから、人間に思うように手出しできないでしょ」
「……」
黙りこくるみんなの方を見て、ラインは微笑む。
「本当、優しい子達。…じゃあちょっと行こうかしら」
「ライン!」
くるりとみんなに背を向けるラインに、ディーナが叫んで引き止める。
「無理はしないで」
「…あら、らしくもなくしんみりしちゃって。」
顔だけ振り向いたラインはそのまま苦笑する。
そして
「じゃあ、”また”ね」
そう微笑むと、片手をひらりと振って歩き始めた。
そうして城から出ると、もうすぐそこに破壊者の人たちが来ていた。
その人数を確認すると、ラインはつい顔を引きつらせる。
何十人いるのかしら。
ラインは心の中でそう思いながら先頭にいる破壊者に声をかける。
「はぁいストップ。破壊者の方がここに何の用かしら?」
ラインが尋ねると、先頭にいる破壊者は険しい顔つきでラインを見た。
「…人型か」
「あら、質問しているのはこちらなのだけれど。」
「答えろ」
ラインは横暴な態度に顔をしかめる。
しかし此処で取り乱すわけにもいかないため、小さくため息をついた。
「ええ、そうよ。それが一体…」
何ーーーー
そう言いかけてラインは一歩後退する。
すると、戦闘の破壊者の剣が風をきった。
ラインは破壊者を睨む。
「…なんのつもりかしら」
「魔人形ごときに話す事は何もないな」
「…はぁ、そう。…単刀直入に言うわ、あたしたちは人型。魔力暴走したら仲間たちでなんとか出来るわ。今までも人間に被害も及ぼしてない…だから襲撃ならやめてほしいんだけれど。」
ラインは何とか交渉しようと話を持ち込むが、敵は身構えるばかりだ。
「魔人形のいうことなんか信じられるか」
「…でも被害がないのは事実よ?」
「どうだか。被害者全員殺しているんではないのか」
「!!」
ラインは破壊者から発せられた言葉に殺気をたてる。
そのおぞましいオーラに破壊者たちは一歩たじろぐ
「……あの子達がそんな事できる訳ないじゃない…この前だって…!!」
挽回しようと破壊者を見るラインの頬に飛んできたナイフがかすった。
ラインの頬を赤い水滴が流れる。
「待ってくれない?血の気多すぎじゃないかしら?あたしたちは人間に害は及ぼさないわ!だから…」
必死なラインに向かって銃が放たれる。
それは腕をかすめた。
「話を聞いて!!」
「魔人形の話など聞く気はない。害があるかどうかは我々が決める。」
「そんな身勝手な…!」
「身勝手なのはどっちだ?魔人形など自分の私利私欲のため人を喰らう悪だ。…今まで散々人を傷つけておいて害はないから生かせと?片腹痛いな」
破壊者はふと嘲笑うように笑みをうかべた。
「それにもしお前らがそれをせずとも魔人形という存在は我らに大きな恐怖を与えている。仲間の責任だ、恨むなら他の奴らを恨むんだな。残念ながら我々は魔人形への信頼なんてできなくなっているんだよ、それだけ、仲間が殺されている。…もしもお前らがイイやつだったとしよう。それでも…信用は出来ないんだ」
「……!」
「仲間が多いと苦労するだろうが我々も我々の生活や安全の保証…命がかかっている、悪く思うな」
そう言って、破壊者は剣を振り下ろした。
「わかったわ」
ガキン
金属音が鳴り響く。
弾かれる剣。呆然とする破壊者たち。
そんな人々を見ながら、ラインは手元のサーベルを振り下ろす。
「あたし達も命かかってんのよ。」
そして、キッと気迫のこもった顔つきで破壊者たちにサーベルを向ける。
「良いわ、相手してあげる。」
少しでも、みんなが逃げる時間をつくらないと…
ラインはサーベルを向けた人数の多さに冷や汗を垂らしながら、自嘲気味に口元を吊り上げた。