SRX

□ショウナンの風
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ホテルを出て、海岸にやってきた私とタクト。

「僕も眠れそうになくてな。潮風に当たろうと思っていたんだ。」

「そこに丁度私が来たと。」

「…偶然なんかではない。君を誘いに行ったんだ。…インターホンを押す勇気が出なかったがな。」

潮風に靡く彼の髪。
横顔を盗み見る。
その顔には柔らかな微笑みが浮かんでいる。
胸の鼓動が早くなっていく。

「迷惑…だっただろうか?」

「そんなこと…ないよ。」

ライブでの姿を見たせいもあり、余計に顔を合わせられない。
いつから私はこんなに彼のことが好きになったのだろう。

「名無しさん?どうして下ばかり向いて…なっ!」

顔を覗き込んできたタクト。
彼の顔が赤く染まっていく。

「見ないでよ!」

「痛いっ!」

タクトの肩を叩く。

「「…」」

無言になる2人。

「…静かだな。」

「…うん。」

再び訪れる静寂。

「そ、そろそろ戻ろっか?明日早いし。」

明日にはリュウキュウに戻らなくてはならない。

「名無しさん。一つだけ…言いたいことがある。…僕は君の事を…」

ちょうどその時、機材が倒れたのか、大きな音が。
それによってタクトの声が完全に掻き消された。

「ごめん、聞こえなかった。」

「な!ライブスタッフめ…っ!僕は君が好きだと言っているんだ!」

「…!」

「さっきの君の顔を見て期待したんだ。もしかしたら同じ気持ちなのではないか、と。」

「…そう。…好きだよ。好きに決まってるでしょ。」

思考がフリーズした彼に抱き締められるまであと数秒。

ショウナンの風には…本当に力があるのかもしれない。
タクトに告白するという勇気を与える程の力を。

Fin
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