エイジン! 〜歴史の時代擬人化〜

□P1 日本国年表の日常・パターンA
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日本国年表、それは、日本の時代たちが暮らす住宅街である。

大体の時代たちは朝から夜まで何処かに出掛けているか、家にこもって仕事をしているかで居なく、今ここに居るのは【弥生】くらいだ。
弥生とは、ある女性の名前である。
黒い髪を結んでいる、一重、そして泣きぼくろが特徴だ。
皆が朝から仕事に行っている間、弥生の地元で行われている方針に従って、弥生は自宅の小さな田で米を栽培している。
そして家は高床式、家の中で作り終えた米を管理しているので、腐らないようにしているらしい。


昼の正午を一二時間くらい過ぎた頃。

弥「ふう、やっと今日のノルマが終わった…。」

弥生が呟いていると、遠くの方から微かにゴツい足音が聞こえてくる。
いつもの聞き慣れた足音だった。だが、いつもより、この音がなるのが早い気がする。

縄「おお、弥生、お疲れ。」

低い声が耳を掠った。
弥生は咄嗟に振り向くと、少し安心した表情を浮かべた。
そこに立っていたのは【縄文】、狩りで生計を立てている、口下手なゴツイケメンの青年だ。
いつも、動物か何かの革で作られた服に、お気に入りの弓矢を背中に背負っている。

弥「兄さん、今日は早いんですね。何かあったんですか?」

弥生がそう尋ねると、縄文は大きな物音を立てながら背中から何かを取り出す。
……死んだ鹿だった。

縄「これ、大きな鹿が捕れた。」

真顔でそんなことを言い出した。
弥生は少し顔を青くして引きながらも、必死に笑顔を保つ。

弥「そ、そうですかー…。」
縄「食う?」

縄文は手に持っている鹿を、弥生に渡そうと思って前に出す。

弥「い、いえ!私には米がありますから!!」

そう言うと、縄文は黙り込んだ。
そしてまた口を開く。

縄「それって、美味しいの? 東周がよく美味しいって言ってくるんだけど…。」

そう言って、縄文は弥生の持っている米袋をじっと見つめた。
ちなみに、【東周】とは中国年表という住宅街に住んでいる時代で、縄文と仲がいい。
しかし、どうして口下手な縄文と、話好きの東周がそんなに仲がいいのか、本当に不思議だ。

弥「美味しいですよ。栄養も比較的とれますし。」
縄「そうなんだ…。」

しばらく縄文と弥生は話し続けた。
話と言っても日常会話で、しかも縄文が意味不明な言動を繰り出すと弥生が苦笑し、弥生が笑い話を持ちかけて笑うと縄文が睨み(わざとではない。)、なかなか話が弾まない。

弥「あ、そういえば、その鹿、他の兄弟たちなら食べるかも知れませんよ?」
縄「そうなの?」
弥「はい!」
縄「じゃ、じゃあ、お裾分けしてくる…。」

そう言って、走り出す縄文。
弥生は、そんな縄文をただ見ていることしか出来なかった。

弥「……平和。」


縄文が最初にやって来たのは【平安】の家だ。
コンコンと、ノックする。

縄「平安、居る?」
安「あら、縄文、どうしたの?」

高飛車な態度で出てきたのは平安。
広い家でひたすらに小説を書いており、重そうな服に身を包んでいる女性だ。
貴族という事もあり、兄である縄文にもその態度で接している。

縄「平安は、食べるの好き?」
安「ま、まあ、人並みには…」

そう言って話を流そうとした平安の前に、大きな鹿の死体が出される。

縄「これ、食べる?」

バタンッ!
平安は、何も言わずに門を閉めた。

縄「」

バタンッ!!
もう1度、素早く門が開かれる。

安「すみません、執筆中ですので。」

バタンッ!!!
そう言われて、すごく大きな音を立てて門を閉められた。

縄「」

気を取り直し、次に縄文は、【平成】の家に向かった。
縄文や弥生、平安などの家は1番東の方、平成や昭和などの家は1番西の方にあるので、いくら同じ住宅街と言っても結構遠い場所にあるのだ。
歩いて20分程すると、平成の家に着いた。平均的な大きさの家に、「太陽光パネル」が付いており、近代的なデザインになっている。
縄文は、ドアの横に付いているチャイムを押した。
ピンポーン♪

平「……誰ですか?」

平成の部屋にあるチャイムのモニターからは、縄文の顔がはっきりと写っている。

平『平成は居らっしゃいません。』
縄「平成、何やってるの?」

平成は外に出たくないが為に、モニターに内蔵されているマイクに向かってそう言ったが、縄文には効かなかった様だ。
ガチャッと、ドアが小さく開いた。

平「用件なら早くどうぞ。今からアニメを一気見したいので。」

冷たく言った。
ちなみにこの青年【平成】は、引きこもりのパソコン大好き人間である。
黒いメガネがチャームポイントで、暗い部屋の中で布団に篭もりながら、いつも眩しいくらいの画面に顔を近づけている。言わば、オタク&ニートという凄まじくダメ人間である。

縄「これ、あげる。」
平「い、いりませんよ。何なんですか!!」

縄文が鹿の死体を出す(本日3回目)と、平成は顔を青くして叫ぶような大声で言った。

縄「美味しいから、食べて。」
平「僕、もうピザを注文してますし、コンビニで弁当も買いましたから。それでは。」

ガチャンッ!!
勢いよくドアが閉められた。

縄「……。」

また、鹿を受け取って貰えなかった。
だが、縄文にとってはいつもの事だ。
縄文は兄弟たちに恐れられている。気難しくて話しにくい。こんなこと、日常茶飯事なのである。

縄「自分で食べるか。」

そう呟きながら、縄文は静かにトボトボと家に帰って行った。


縄文が自分の家の前に帰ってきたのは、夕方だった。
日が沈みかけて真っ赤になっている。
縄文は、自分の家の庭で立ち尽くしていた。

縄「……。」

そこに、小さな走る音が何個も聞こえてきた。
【江戸】の兄弟たちだった。しかも、弥生までもがいる。

康「縄文さーん!!」

江戸の1番上の兄である、【康】が大声で縄文の名前を呼んだ。
全員が縄文の前で止まると、息を切らして3男の【光】が口を開いた。

光「その鹿のお肉、僕達が貰ってもいいですか?」
縄「……え?」
家「弥生さんから聞いたんです。縄文さんが鹿の肉をくれるって。
僕たち、大家族なので、おかずが足りないんです。だから、鹿の肉を分けてくれませんか?」

家がそう言っている隣で、弥生がニコリを笑っている。

縄「ありがとう…。この鹿、全部あげる。」

縄文は、嬉しくて泣きそうになりながら、優しく微笑んだ。
……その瞬間、江戸兄弟たちの顔が青ざめ、悲鳴をあげ始めた。
弥生が、自分の懐から鏡を取り出して縄文に向ける。
縄文も声をあげそうになった。

……縄文の笑顔が、有り得ないほど恐ろしかったのだ。


END
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