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□きみにキスを
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どうしてそんなこと言うんですかって。
重ねた手をすっと離したら、まるで傷口から血が溢れる時みたいに君はほろり、涙を流す。


ほんの少しの意地悪が、君の繊細すぎる糸を傷つけては細く削っていった。
縒れて切れる、感情線。
それは今まさに物理的に存在しているかのように私の手の内にあって。


どうしてだろうね。
どうしてこんなこと言ってしまうのだろうね。


君にも私にもきっとそれは分からない。


ただね。


どんなことを言えば君が喜んで、
どんなことを言えばそこから一気に突き落とすことが出来るか。


どうしてだろうね。
私はいつもそればかり考えているよ。


「離れないで・・傍にいてください。」


私にすがってくる手が愛おしい。
そっと頭をあたためると、ゆらゆら揺れる綺麗な黒目は水に浮かんでぼやけていった。


大丈夫、私はどこにも行かないよ。


今日もこうして、互いがここにいることを確かめて。


君が流した私への愛を、掬うようにそっとキスをした。



*--きみにキスを--*(太宰治)





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