夢物語

□探偵社設立後秘話?(社長)
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「───あっはっは!僕がスズメにごはんをあげてる間にそんな愉快なことが起こってたなんて!早起きして損しちゃった!三文の得だなんて誰が言ったんだろうね!一生分の損だよ!ねぇもう一度昨晩からやり直そうよ!一体何の異能だろうねぇそれ!あ、これ食べない?もらうね!それにしても愉快だね!まぁ僕の超推理があればすぱっと解決だよ!でも今ごはん食べてるから後でね!」

異能を持つ少年探偵───のちに偉大なる一般人として名を馳せる予定のオコチャマ時代の乱歩さんが、お腹を抱えて笑っていた。
円卓を囲む、妙なる面子での朝食の場。
食べるか笑うかのどちらかにしなさいと静かに窘めるのは社長で、しかし生憎その姿は小娘なので威厳のかけらもない。
さらに笑う乱歩さんはわたしのた
まご焼きを当たり前のように攫っていった。

(なぜこんなことに………。)

わたしは項垂れた。
早く食べないから残してるんだと思っちゃった、と隣から文句を言われるが、凹んでいるのはそっちの話じゃない。
何せ、食器棚のガラスに映っている自分は、紛れもなく探偵社社長なのだ。
ショックやら何やらで、箸はちっとも進まない。
状況はこうだ。結論から言えば社長とわたしの中身が入れ替わってしまった。
まったく雑すぎるコメディである。

昨晩は仕事のあと縁日に誘われ、この擬似親子──実はしばらくの間本物の親子だと思っていた──と共に楽しんだのち、今度は縁側で花火をするのだと半ば無理やり連れられ二人の邸宅に。
スイカを食べたところまでは問題なかったのだけど、社長がどこかへ行った隙、置いてある日本酒に手をかけたのが神様にでもバレたのかもしれない。
未成年の飲酒は法律違反だ。
そんなことは知ったこっちゃないというのが若気の至りである。

「社長、頭痛くないですか?」

ひたすら人のおかずを奪う乱歩さんの横で、わたしはお茶碗を守りつつそう尋ねた。
正座したままぴくりとも動かない少女の目がこちらに流れる。

「問題ない。」

ホッとしたのは、あの後悪酔いしたわたしが社長に頭突きをかましたから、という一点だけではない。
二日酔いの心配もあったのだ。
冒頭で一緒に寝ていたのはそういう理由からであって、決してやましい関係ではないことをここに言い置いておく。
乱歩さんが早起きさえしていなければ、こんな誤解を呼ぶ事は無かったのだが。

「僕の超推理によるとだね!」

すっかり上機嫌な名探偵がようやく推理モードに入ってくれたのは、朝食が済んで片づけも終わって、アイスのおねだりを社長に断られた頃だった。

「それは異能じゃあないね!ズバリ怪奇現象!」

なんっ……。
言葉に詰まったのはわたしのほうだ。
僕幻想怪奇大好き!と喜ぶのは当然乱歩さんだけで、そんなフワっとした説明で終了されると、探偵代として払った大金(というお菓子)を返せと言いたくなる。
が、口ごたえに開きかけた唇を制して乱歩さんは言い募った。

「君の法律違反が起こした事なんだからね!せいぜい悔い改めなよ!」

このガキめ、と拳を震わせるものの社長から見ればどちらも問題児たるガキであり、しかしながらその表情はぴくりとも動かない。
待つ姿勢においては、この世の誰よりも忍耐があると言っても過言ではないだろう。

「社長、この話が本当として、どうしましょう。」
「ちょっと君失礼だなあ!僕は嘘ついたりしな──ぐぇっ、」

ちゃちゃを入れてくる乱歩さんを顔面ごと片手で押さえつけて、わたしは社長に目を向ける。
確か今日は誰かに会う約束があったのではないか。
しばらく黙っていた社長は、ひとり頷くとわたしを見据えた。

「予定は俺が行く。」
「ええええどうやってですか。わたしじゃなくて、わたしの格好で社長が行くんですか?」

ゆっくりと縦に振られる首。
何度も言うが、神妙な顔つきの少女はかなり奇妙である。

「幸い今日の予定は危険なものではない。お前のフリをして、代行であると伝えよう。」

確かにわたしが社長のフリをするよりリスクは低いけど!
では早速向かう、と立ち上がった社長にわたしは慌てて手をかけた。

「だだだ駄目ですよそのままなんて!髪もボサボサだし!ちゃんと整えてください!」

昨日の服のまんま、寝癖をつけた状態で外を歩くなんて死んだ方がマシだ。
やっぱり駄目だ、とても安心して行かせられないよ。

「社長!わたしもついて行きます!」

社長の目が見開いたのは、その申し出への驚きではなく、窒息しかけている乱歩さんに気付いたからであった。



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