傷跡

□お前の名を
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「んおっギル」

声の主はきらきらと光る金髪美女………もとい金髪男。顔の半分を大きく隠すその髪型には初めて会ったとき大きな傷でもあるのかと思ったものだ。そして本人がチャームポイントだと言って譲らないヘアピン2本。

それがあいつの容姿。

「よぉ。どうだ副隊長さん調子は」

「んー…まぁまぁってとこすかね」

だるそうな声音。口調は誰にでも同じ。〜っす が語尾に付いてしまうのは癖らしい。同期のナナにも同じ口調である。だが口調のわりに生意気で任務に出掛けると「あんまり、今日みたいに上手くいくと思わない方がいいっすよ」などと言ってしまう奴でもある。

「そうか。そのわりに顔色があまり良くないな。言っただろ?無理はするなと」

そんなこいつに好意を抱いてしまった俺の負けだ。猪突猛進。戦場で引くことを知らないあいつを助けに行くのはいつも俺だった。そのたびに「すいませんでした…」と少しむくれたような、悔しそうな声で応えられては惚れるなと言う方が無理だろう。

「んな無理してねーっすよ。」

今日の任務はこいつと一緒ではなく、俺はロミオとナナと。あいつはハルさん達とという組み合わせだった。
こいつの無理してないは信用出来ん。

「ならいい。俺と同じ任務じゃない時に何かあっても対応出来ないからな」

仲間として言っている、あいつはそう思う。そう思うに違いない。
鈍ちんのあいつだ。そうでなければハルさんに迷惑がかかるからっすよね?とか言いかねない。

「そんなこと起きねーっすよ。第一、ハルさんと一緒なのにそんな大きな怪我するわけないっすよ」

そうきたか。

「………つまり大きな怪我はしてないけど怪我はした…と」

「!?」

怠惰のくせにすぐ顔に出る。目を開いてこっちを見つめてくる。
俺は帽子のつばを少し直しああ言えばこう言う金髪を見つめた。

「なんでそーなるんすか…俺何も怪我してないんすけど。てか、怪我したらまず一緒のハルさんに言うと思うんすけど?」

焦りの色を薄く纏った金髪は右へと流れる。生意気な心を射抜くような赤い目は金髪と一緒に右へと視線を逸らす。

右…ねぇ。

こいつは案外分かりやすい。
綺麗な顔して生意気な上、それでいて素直だ。こういう事に関してこいつは嘘をつけない。嘘をつかない。
そういう所に惚れたのかもしれない。

あいつの右足を服の上からみるからには異常はない。俺とあいつがさっき会ったときもこっちが歩いているのに向こうが声をかけてきた状態だから、右足を庇っているかすら分からない。

ただ、こいつは素直だ。

でも

「お前、ちょっとこい」

素直じゃない。






「!?なにしやがッ……!離すっすよ!」

たまたまロビーで見かけた仲間に声をかけ今日の任務を軽く話して、しっかり休めとかそれくらいの事を言って終わるはずだった。

コミュニケーションはとても大切だ。特に連携を取らねばならない俺達のような場合は。味方の考えを知り、行動を予測する。その逆もしかり。行動を見て考えを予測するのだ。だから俺はなるべく仲間達とは言葉を交わすようにしている。

……俺はコミュニケーションは得意な方ではないが……

同期のナナにはいつまでその口調なんだと、おでんパンを口にいっぱい頬張りながら説教されたのを覚えている。
その時はとりあえず怒るか食べるかどっちかにするっすよ。と言うとあっけなく、食べる方を選んで貰えたのだが。

どうしてこうなった??

正直ちょーっとは怪我をした。自室に戻ってから手当てすれば充分な怪我だったため、ハルさんには報告しなかった。このくらいの怪我ならば問題ないと踏んだ。

「大人しくしてろあんまり騒ぐと目立つぞ?お姫様」

「ッ!騒がせてやがんのはどこのどいなんすかね!あと、お姫様って言うにはこれは俵抱きって言うんですけどね!」

だが髪の毛さらっさら、女の子青ざめるこの男に何故か誘導尋問をされた。しかも何故か起こっている。俺が何をしたってんだよ……寧ろなんかしてるのはアンタの方でしょうよとは言えないまま、ギルの言う通り周りの視線の色が心地悪く何故か恥ずかしさを覚えてしまった。

しかし自分を俵抱きするこの男は、自分の何処に怒っていると言うのか。

怪我したこと?

怪我をハルさん報告しなかったこと?

怪我を甘く見て自分で出来る軽い処置で済ましてしまおうと思っていたこと?

………ギルの考えはよく分からない。

段々考えるのもめんどくさくなってきた俺は、このまま何処へ連れていかれるのかという想像だけすることにして、やはり怪我で怒っているのだから医務室だろうと1人で賭けを始めることにした。
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