▽long story
□愛しきひとへ
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目が覚めたのは夕方だった。
学校の非常階段で寝ていたら丸1日過ぎてしまっていたようだ。
昨日自分が乗ってきたリムジンの姿はどこにもなく、屋敷まで歩いて帰ることにする。本当は面倒だがこればかりは仕方ない。
空を飛ぶのも一つの手だったが体力は消耗したくなかったからやめておいた。
学校なんてものはサボる。
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俺は街が嫌いだ。
行き交う人々の声は煩く、いつも俺を苛立たせる。
〈騒音〉とも言うべきそれはイヤホンから流れる音楽を遮断していく。
「はぁ、なんでこんな目に…」
「(さっさとここを抜け出そう)」
そう思い歩を進める。
周りには別段綺麗でもない女をナンパする人間や派手なメイクの女、堂々とイチャつくカップルがよく目につく。
「(あの女こっち見てるな…、気持ち悪い)」
視線を感じ目を向けるとケバいメイクをした女達が見えた。
そいつらを睨みつけ、再び歩き出す。
「(本当、災難だ)」
そんなことを思った次の瞬間。
胸板に強い衝撃が走った。
上げていた顔を下げると目の前には、バゲットの入った袋を抱えて倒れ込む少女がいた。
おおよそ買い物か何かの帰りだったのだろう。
そして少女はさっと立ち上がり
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!!!」と言葉を連呼している。
それと同時に凄まじい勢いで頭を下げる。
ーーふと香ったかすかな血の匂いに目を凝らして後頭部を見る。
すると案の定血が出ていた。
「別にいいんだけど、あんた頭から血出てる」
そう告げると少女は「ひぃ…っ!」と小さな悲鳴をあげ地面に倒れた。
「また面倒くさいことになったな…」
俺はその少女を抱え屋敷へと向かった。