▽short story
□君不足
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「足りない……足りない…」
もう何十回目の「足りない」を呟き、やっと隣に座る彼の痛い視線に気づく。
コイツやべぇ…と言いた気なその表情にすらもときめいてしまう。正直末期である。
「足りねぇって何が足りてねぇんだ」
「スバルの愛情とか匂いとか会話とか」
「わかった、それ以上は言うな」
途端にかけていたソファからスバルが立ち上がる。
どこにいくのかと不安気に見つめれば、クイっと腕を引かれ、立てということなのかなと察しておもむろに立ち上がった。
「……チッ、あのなぁ、俺はお前のことが嫌いってワケじゃねぇ」
「知ってる」
「じゃあ何が」
「キスしてよ」
「……目、閉じろ」
チュ、と小さくリップ音を奏でる。
そして、触れるだけのキスはやがて深いものに変わっていく。
息継ぎの合間に聞こえた私の名前を呼ぶ声が酷く愛おしく感じた。