月の王子様

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11時になり、携帯も繋がらない。ますます嫌な予感がして来た。ロビーまで降りるとそれなりに人がいる。受付に行き俺に面会に来た女性がいないか聞くと、1時間ほど前に来ていると言う。


これはもう確信に近い。彼女は何かトラブルに巻き込まれているのかもしれない。しかも病院内で。人助けをしているなら俺に一言あってもいいはずだし、何も言わずに消えるなんて彼女に限って有り得ない。


ロビーにいる人たちに片っ端から聞き込みをした。携帯に保存している写メを見せながら聴き込むこと二十三人目。ちょうど一時間前に来ていた見舞客を見つけることができて、彼女を覚えていた。男性と一緒に俺の部屋とは逆方向に行ったらしい。


どう言うことだ?俺以外の知り合いがここにいるのか?…いや、それなら話しているだろう。なら、なんだ?あっちは一般病棟ではなく特別病棟だ。何があるんだ?


目撃情報を頼りに名前を探すことにした。病院内なら携帯の電源を切っている可能性もあるが、もし、名前の意思とは別に電源が繋がらない状態にあるなら一刻を争うかもしれない。


今日という日が11月7日じゃなければもっと冷静になれたかもしれない。いや、無理か。名前のことになれば、冷静ではいられないだろう。


特別病棟にくれば人もまばらで、目撃情報を探すのは困難を極めた。一つ一つ当たるしかなさそうだ。


しかしここには名前はいなかった。一体どこに消えたんだ?エレベーターを待っている時、ふと、階段が目についた。このエレベーターは受付のある1階から5階までしか止まらない。でも、確か、地下室があったはずだ。


目が覚めてリハビリが行えるようになるまで、暇を持て余していた俺は松田と、病院内に爆弾を仕掛けるならどこにするかと話し合ったことがあった。その時、俺たちの意見は、特別病棟の地下室だろうと結論を出した。


嫌なタイミングで思い出してしまった。


俺は階段を降りていくことにした。


地下まで降りるとボイラー室や配電盤、そして俺たちが話し合った廃棄物保管場所があった。迷わず廃棄物保管場所の扉に手をかけるが鍵がかかっているようだった。


…ここじゃないのか?俺はエレベーターの通ってない地下室から出るのにまた階段を登るのかと、ため息が漏れた。
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