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□立派なストーカー?
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爆弾事件に一区切りつき、ようやく退院した俺は、一にも二にも名前に会いに行くことしか頭になかった。

伸び切った髪を切り、傷跡がわずかに隠れる程度に化粧をする。本当は化粧なんてしないでありのままの俺を受け入れて欲しいのだが、記憶喪失になってしまい未だに事件と俺のことを覚えていない名前に会うには勇気が足りなかった。

俺のことを忘れた名前の家に行くことはできなかった。怖がられたり拒絶されたらもう生きていけない自信ある。

そしてやって来たのは名前と初めて会ったあの公園。あの日はコンビニからストーk……見守ってここで声をかけたんだが、今日はここで待ち伏s……こほん。見廻り、という事にしよう。

なんか俺、立派なストーカーじゃね?

……いやいや、大丈夫。きっと大丈夫。まだ犯罪にはならないレベルだ。

レベルを気にした段階でアウトだ、という事には気づかないふりをして名前を待った。

そして、名前はやって来た。まったくもって警戒心というものが見当たらず、コンビニの袋を持って、鼻歌を歌ってやってきた。

そうして俺たちはまた出会いから始まる。




…………予定だった。

「これ、俺の連絡先。」
「え?」

名前の住んでいるマンションのエントランス前で、俺の連絡先を書いたメモ用紙を渡そうとしたら、メモ用紙と俺の顔を交互に見て眉間に深いしわを寄せた名前。正直ショックなんですけど?

「やっぱりナンパ?」
「いや、違、わないけど。何て言うか、ほら、俺、警察官だし?困ったことがあったら連絡してほしいなー、なんて?」
「……。」

心底困った顔して、どう断ろうか考えている。どうする?ここで断られるとは考えもいなかったから、正直こちらも引くに引けない。

「受け取ってくれるだけでいいよ。君の携帯に登録しなくてもいい。帰ったらそのまま破り捨てても……本当は嫌なんだけど、仕方ない。」
「……。」
「でももし、登録してもいいかなって思ったら登録だけでもしてくれると嬉しい。」
「……。」
「そんで、もし!もしも!!連絡くれたら、死ぬほど嬉しい!!……から。待ってるよ。」
「え!?ちょっ!!」

半ば無理矢理、俺の連絡先を名前の手に押し付けて、逃げるように去って行った。




一週間後

「はぁぁあ……」

携帯を見てため息をつく萩原の頭を、持っていた資料を丸めてスパーンとぶっ叩く。

「何で俺の机でグダグダしてんだ?お前の仕事は新人の教育だろうが!」
「松田ぁ。傷心の俺を慰めて。」

どうやらグダグダじゃなくてウジウジしていたらしい。鬱陶しい。

「おー。じゃぁコレの始末書よろしく。あと経理課行って交通費の申請してきてくれ。それが終わったら「ちょっ!待て待て待て!!」……何だよ。」
「慰めてとは言ったけど仕事を代わりにやるとは言ってない!!」
「同意だろう?」
「何処が!?」

ピロリン

「「!!」」

萩原の携帯がメールの着信を知らせる。恐る恐る携帯を開くとそこには……ダイレクトメールが届いていた。

「はぁぁあ……」

鬱陶しい。メールなんて待ってないで会いにいけば良いだろうに。何でこんなまどろっこしい事をしやがったんだ??

ピロリン

「「……」」

届いたメールを気怠げに開く萩原の顔が一瞬で地獄から天国に変わった。さっきまで死相が出ていたというのに。誰からなんて聞くだけ野暮だろう。

「ま、まま、ま、まつ、松田ぁぁああ!!」
「ええぃ!鬱陶しい!!」

今度は正面から、丸めた資料で渾身の一振りでぶっ叩いた。萩原の顔がボールだったらホームラン間違いないだろう。

「きた!メールきた!!名前ちゃんからメールきた!!」

顔見りゃわかる。

「どうしよう!なんて返信したら良い!?うっわ、緊張で手汗半端ない!!」

もうどうでも良い。っていうか、俺を巻き込むな。二人の問題だろう?俺を巻き込むな。大事なことだからもう一度言う。俺を巻き込むな!

ここは男子中学生の恋愛相談所じゃねぇんだよ!警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係なんだよ!!

「良かったな。ま、精々ストーカーで訴えられないように頑張れよ。」
「松田!?え!?ちょっ!!」

この後のことはよく知らない。ただ、付き合うことになったと嬉しそうに報告しにくる萩原が心底幸せそうで本当に良かったと、内心安堵したことはここだけの秘密だ。
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