短編
□ダメとは言われなかったから
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あー、今日も疲れた。
帰宅途中で何度この言葉が出たかわからない。思考は“疲れた”以外を考えることを放棄したようだ。
あー、ホントに疲れた。
キュラソーの事件で風見さんが拳銃をなくしたので、観覧車の解体作業を中断させ公安が拳銃の捜索をしている。
風見さんが持っていた拳銃には銃弾がセットされていた。もし、第三者の手に渡り悪用されようものなら、警察庁の汚点になりかねない。なんとしてでも探し出さなければならなかった。せめて銃弾だけでも見つかれば。
瓦礫の中を隈なく捜索し、現場監督の指示をもらいながら、少数の解体作業者にのみ公安監修のもと、手作業で瓦礫を撤去していた。そんな日がかれこれ3週間続いた。この瓦礫の中から探すのは困難を極めていた。
そして冒頭に到るのである。
ようやく自宅マンションに着き、オートロックを外しエレベーターに乗る。目的の階を押し数秒。ポーンという音がして扉が開く。玄関まで数メートル。歩きながらカバンから鍵を取り出し、玄関前に到着とともに鍵穴に鍵を入れて回す。少し重たい『ガチャン』という音が二つ。ようやく自宅マンションにたどり着いた。
「ただいま〜。」
「お帰り。」
「ぅわっ!!」
誰もいないと思っていたから完全に油断した。
「と、透?何でいるの!?」
「酷いな。久しぶりに恋人が夕飯作って待ってたのに。」
「いや、うん。嬉しいけど、びっくりした。」
「携帯見てないだろ?」
「ん?ちょっと待って。………あ、本当だ。透からメール来てた。」
「今確認したんじゃ遅いだろ。」
「ごめん。」
「いや、俺の部下の不祥事だろ?」
仕事内容が筒抜けとか、やり辛いわ。でも、私たちの仕事は秘密が多いから答えてあげる気もない。
「秘密だよ。」