月の王子様
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萩原さんのことをようやく思い出したのに連絡が取れなくなった。爆弾事件から一年と数ヶ月。信じて待つとは言ったけど、あの爆発の時現場にいたのが萩原さんなら、生きてる可能性は低い。でも、同性の別人かもしれないし、私の知っている萩原さんじゃない人かもしれない。
そんな期待を胸に私はマンション前に訪れていた。爆発のあった20階を見て、携帯を見てはため息を吐く。住民からして見たらあの日のことは忘れたいだろう。でも、私は忘れられない。萩原さんと連絡が取れるまではきっと忘れないだろう。
何度目かのため息を吐き出した時小さな笑い声が聞こえた。顔を上げるとあの日、萩原さんの名前を叫んでいた人がいた。
「………あ」
どうしよう。相手は私を知らないだろうし、萩原さんだって言ってないだろう。私今すごく不審者なんじゃ???
そう思ったら逃げてた。全力ダッシュだった。……筈なのにすぐに捕まった。あれ?おかしいな。ゼェゼェと息を切らして胸の動悸を必死で整えるが、日頃の運動不足が原因でなかなか治らない。
「俺の事知ってて逃げたのか?」
「………。」
「なんか、後ろめたいことでもあんのか?」
「………。」
「なんとか言ったらどうなんだ!?」
「ちょっ……と、まっ………て、今………苦し…」
今は無理。ちょっと待って。怒っていた彼は今度は呆れていた。そして私の手を引いて近くのカフェに入りコーヒーを注文した。怖い人かと思ったけど、案外優しい人なのかもしれない。
コーヒー飲んですっかり落ち着いた私は、さっきの行動のお詫びをした。
「私、苗字と言います。先ほどは大変失礼いたしました。」
「…それは逃げたことか?」
それ以外何がある?と思いたいが、いろいろありすぎて逆に困ってしまった。
「質問変える。俺の事知ってるだろ?どこかで会ったことあるか?」
「………一年数ヶ月前にあった爆弾事件のとき、あのマンションの前にいましたよね?私も居たんです。」
「あの事件の関係者か?」
「………そうじゃないと思いたいです。」
「は?」
「私、萩原さんと………知り合いなんです。」