月の王子様

□0.5
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帰る途中立ち寄ったコンビニで死相が出ている女を見かけた。実際には疲れ切って今にも倒れそうな女だ。その女はコンビニでつまみとビールを数本買ってコンビニを出た。



(頼むから、家に帰ってから飲んでくれよ?)



心の中で願ったが、その願いは叶わなかった。



水とタバコを買ってコンビニから出ると少し先にコンビニにいた女がいた。フラフラと覚束ない足取りで公園に入っていく。



(おいおい、自分が今どんな状態かわかってんのか?)



昼間なら子供達で賑わう公園も夜になれば話は別だ。女が1人でフラフラと入っていけば何されるかわかったもんじゃない。担当の部署は違えど、曲がりなりにも警察の自分が見逃すわけにはいかなかった。



(何事もなく公園を通り過ぎてくれれば問題ないんだが…。)



そう自分に言い聞かせ女の後をつける。下手に声をかけて騒がれても厄介だ。声はかけずに少し後ろを尾行した。公園の中央部、少し開けている場所で女は徐ろに空を見上げ月を眺めていた。その姿を見て童話に出てくるかぐや姫が瞬時に脳裏に浮かんだ。が、その連想はすぐに打ち消される事になった。



彼女は持っていたビールのプルタブを開け月見を始めたのだ。時々イカサキを咥えながら鼻歌を歌っている。



俺は頭を抱えた。もともと覚束ない足取りは動くことをやめその場に座り込んでしまった。ご機嫌に鼻歌を歌いながら頭が揺れている。



(おいおい、ここで寝る気か!?)



このままではヤバイことは確実だった。思い切って声をかける事にする。



「オネーサン、そんなところに座り込んでたら冷えちゃうよ?お家どこ?送っていこうか?」
「………。」



ご機嫌だった女は俺が声をかけた途端据わった目で俺を睨む。



「ナンパなら他を当たって。」



鼻歌の声のトーンを大きく下回る低い声で牽制された。まぉ、俺にして見たら可愛いもんだが。これは少々手強い相手かもしれない。
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