月の王子様

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あの日から一年と数ヶ月が過ぎた。世間からは爆弾事件のことは忘れ去られていた。



俺は爆弾が仕掛けられていたマンションの前にいた。マンションは爆発の後改修工事が行われ綺麗に元に戻っていた。当時の住民は越していったも者もいるらしいが、爆発があった20階は住居スペースではなく住民専用の憩いの場として多目的スペースとなったらしい。



マンションはあの日よりセキュリティ強化し関係者以外の立ち入りを厳しく監視している。防犯カメラの台数も増えエントランスにはコンサルジュも導入した。



エントランスから出てくる子供達を見ながら、タバコを一本吸い終わると、俺と同じようにマンションを見上げている女に気がついた。



その女は携帯を見てはため息を吐いていて、その姿があの日萩原がしていた姿と重なった。



俺はマンションを見るふりをしてその女を観察した。こういう時サングラスは役立つ。マンションを見つめ数分毎に携帯を見てはため息を吐く。萩原そっくりの行動におかしくなり小さく笑ってしまった。



「ククッ。」
「………あ。」



俺の笑い声を聴き漏らさなかった女が俺を見て驚いていた。面識はないと思っていたが。女は俺を見て視線を彷徨わせた後、機動隊の俺が感心するほど綺麗な回れ右を披露した。そして逃げた。


………は?逃げた?



「おい!待て!!」



数秒遅れて追いかける。すぐに捕まえることができた。100メートルも走ってないと思うのに、女は息を切らしていた。おいおい、運動不足にも程があるだろう?



「俺の事知ってて逃げたのか?」
「………。」
「なんか、後ろめたいことでもあんのか?」
「………。」
「なんとか言ったらどうなんだ!?」
「ちょっ……と、まっ………て、今………苦し…」



どんだけ運動不足なんだよ。



ゼェゼェ言ってる女の腕を掴んで近くのカフェに入った。感だが、こいつは悪い事できそうにないと思ったから、いきなり怒鳴った詫びも込めて飲み物を注文する。ようやく息が整ったようで、こいつの話を聞いて驚く事になるとは、この時はまだ知らなかった。
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