月の王子様

□7
1ページ/2ページ

萩原と知り合い?いくら親友とはいえ萩原の交友関係までは知らないが、女がいたなんて………いや、待て。萩原は言っていたじゃないか、好みの女と出会ったって。携帯を見てはため息をついてたじゃないか。じゃあ、こいつが?



「あの、知っていたら教えてください。あの日、爆発に巻き込まれた萩原さんは、萩原研二さんで間違いないんでしょうか?」
「その質問に答える前に、俺からも聞きたいことがある。」
「………何ですか?」
「萩原とはどこで知り合った?」



女が視線を彷徨わせた。俺の記憶が正しければ夜の公園だった筈だ。そんなに変なことではないが、何をためらっているんだ?



「……公園です。」
「いつだ?」
「……事件のあった数日前です。」



間違いない。萩原が落ちた女だ。確かに可愛いし、庇護欲を掻き立てられる女だ。女に甘いあいつの好みにぴったりだな。



だが、問題は本当のことを言うべきかどうか、だ。



萩原は生きている。だが、今のあいつを見て怖がらない女はいないだろう。全身の火傷で最も酷かったのは顔だ。皮膚移植もしたが、それでも元通りにはならなかった。俺たちはいろんな現場を見てきたからまだ大丈夫だが、素人が今のあいつを見たらトラウマになり兼ねない。知り合いなら尚更だ。萩原は死んだ。そう伝えればこいつも萩原のことを忘れて前に進めるだろう。その方が良い。



「あんたの知ってる萩原で間違いねぇよ。」
「…そんな。」
「でも、死んではいねぇ、生きてるよ。」



頭ではわかっているが、まだ生きている親友死んだとは嘘でも言えなかった。それに萩原が死にきれないほどこの世に未練があるとしたら、きっとこのお嬢さんのことに間違いないから。



萩原が目覚めるきっかけになるなら、俺は嫌われても恨まれても良い。だから、………あいつを助けてくれ。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ