月の王子様
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萩原さんが生きてると知った次の日、私は覚悟を決めた。
「苗字です。昨日はすみませんでした。一晩考えました。私、萩原さんに会いたいです。」
そう伝えれば、松田さんは時間と場所を指定し電話が切れた。松田さんにはどうにも嫌われているみたいだ。第一印象最悪だったし、目が合った瞬間逃げたんだもん。仕方ないよね。自業自得だ。
指定された場所は都内の総合病院。最新設備の揃う米花中央病院だった。
ここに萩原さんがいるの?逸る気持ちをなんとか抑えて松田さんを待った。待つこと数十分。
「悪い、遅くなった。」
いつものサングラス姿の松田さんがやってきた。
「もう一度言っておくが、今の萩原はあんたの知ってる萩原じゃない。それでも会うか?」
「はい。」
昨日はためらった返事も今日は松田さんを正面から見ながら答えることができた。
「ついてこい。」
松田さんの後ろを無言でついていくと、一般病棟の個室についた。
「最近ようやくICUから出られたんだ。」
松田さんはそう言ってノックもなしに扉を開けた。
「よぅ、萩原。今日は特別ゲスト連れてきてやったぜ?感謝しろよ?」
松田さんの言葉に返事はない。私は病室に入りカーテンの向こう側にいる萩原さんを見つけた。
男性にしては少し長めだった髪は短く切られ、女性のようだった顔は火傷のあとで所々赤くなって皮膚も引き攣った跡が残っていた。細身では合ったが健康的だった体は痩せて身体中についた管が痛々しい。
それでも目をそらすことはなかった。萩原さんに繋がっている心拍数を示す機会はピッピッと規則正しく音を立て、点滴からはポタ…ポタと命を繋ぐ水分や栄養が入っていた。
彼は間違いなく生きていた。