チビー's(長編)

□疲れてるんだと思い込むことにしました。
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「つ、疲れた・・・。」


 怒涛の十連勤をようやく終えて、最終電車に乗り込んだ時に思わず漏れた言葉だった。それもこれも、うちの上司の確認ミスが原因だったわけだけども・・・。もっと驚いたことに、柳田君の一言だった。


「昨日合コンで知り合った女の子が取引先の受付嬢だったんスけど、彼女が今度のプレゼンうち以外にも3社予定していて、見積もりも内容もわが社よりも優れているそうですよ?」


 全員の口があんぐりと開ききっていたことは間違いないだろう。そしてプレゼンするのがうち以外にもあり、内容も知っていることに驚きは隠せなかった。それを合コンで知り合った女の子から聞き出すとか・・・信じられない。なんで受付の女の子が社内機密を知っているのかとか疑問もあったけど、柳田君の持ってきた資料がすべてを物語っていた。そこからはお分かりの通り、会社一丸となって今回のプレゼンを成功させ契約をすることに成功した。打ち上げと称して飲み会を行いようやく解放されたのだ。
 

(本当に死ぬかと思った。けど、これで心置きなく・・・)


 仕事は大変だった。けど、やりがいもあった。勤続7年。私は今日、会社を辞めてきた。
 退職することを知っているのは上司と人事部部長のみ。本当は最後の挨拶とかもしたかったけど、心が折れそうだったから上司に手紙を託してきた。明日の朝礼で読んでもらうことになっている。


(薄情者で申し訳ない。でも、誤らないよ。・・・そうだな、心残りがあるとしたら、みんなにお礼が言いたかったかな。)


 ふふっ。と小さく漏れ出た笑い声は微かにふるえてた。


 マンションに到着して家のカギを開けようとして異変に気がついた。


(鍵が、開いてる?)


 家を出るときに閉め忘れただろうか?それとも空き巣?取られるものなんて何もないのだが。一応は警戒心をもって、だが、これと言って防犯グッズは何も持ってはいないのだが、ドキドキしながら玄関のドアを開けた。玄関を荒らされた形跡はない。けれど、リビングの明りが付いている。玄関を開けっぱなしで明りも消さずに家を出たっけ?残業続きの十連勤だったから、今朝の記憶がすっかり抜けている。朝食を食べたかどうかも思い出せない。相当堪えていたらしい。廊下に面している寝室もそっと開けて見たけれど荒らされた痕跡はなかった。
 空き巣が家を荒らさずに捜索するとは思えなかった。やはり自分のうっかりが原因かと思い込み、リビングの扉を開けて固まった。


「おかえりなさい」
「おかえり」


 小さな男の子が二人、リビングのソファで一人は新聞、一人は小説を読んでいた。しかもコーヒー片手に。どういうことだ?
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