月と星の物語

□お昼寝
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とある昼下がり。
私は側近の清光を探している。
書類の確認をして欲しいのだけど…。
なかなか見つからない。


「あ、薬研君」


たまたま通りかかった薬研君に声を掛ける。
彼は私の方を見るとにこりと微笑んだ。


「どうしたんだい、大将」
「清光を探してるんだけどなかなか見つからなくて…。薬研君は知らない?」
「んー、俺っちは知らねぇなぁ。今日天気がいいから庭で昼寝でもしてるんじゃねぇか?」


確かに、外でお昼寝したら気持ちよさそうだもんね。
薬研君にお礼を言って私は庭へと足を向けた。
ここの本丸には大きな木が立っている。
きっと何百年も前からここにいるんだろうなぁ。
そのくらい立派な出で立ちをしている。
角を曲がるとその木が見えた。
庭を見渡した感じ短刀達の声が聞こえるだけで清光の姿は見当たらない。
下駄を履いて庭に降りる。
私が歩く度に砂利を踏む音が響く。
あの木の裏にいたりして。
ゆっくり近付くと黒い袴の裾が見えた。


「きよみ…」


呼びかけようとして思いとどまった。
そんな気持ちよさそうな顔で寝ていたら起こせないじゃない…。
私は側にしゃがみ込んで彼の顔を覗き込む。
綺麗な横顔。
まつ毛、長いんだなぁ。
肌なんて触ったら気持ちよさそう。
触ったら起きてしまうだろうか。
怒られるかな…。
そんな邪な気持ちが私の手を動かし。
頬に触れた。
あ…、柔らかい…。
と、その刹那。


「寝込みを襲うとかひどーい」
「へっ!?」


思いがけない声掛けに私は驚いて尻もちをついた。
ゆっくりとそちらを向くとさっきまで寝ていたはずの彼がこちらを向いている。
一気に血の気が引いた。


「あ、あのねっ、違うのっ…!これはっ…!」
「寝込みを襲って俺をどうするつもりだったの?」


私が焦っているのをいいことに清光はからかう様にそう続けた。
恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。
この状況からどう抜け出すか頭をフル回転させる。
そんな私を余所目に彼は楽しそうにくすくすと笑っている。


「こんな事しなくても…」


いきなり腕を引っ張られ、気が付くと彼の腕の中にいた。
近い距離に顔があって一気に熱が上がる。


「言ってくれれば何時でも相手するのに」


一瞬視界が暗くなる。
と同時に唇に温かい感触。
口付けをしていると気付くのに少し時間がかかった。
ゆっくりと顔が離れると彼がにやっと笑った。


「なっ…なにしっ…!!」
「何ってちゅーだよ。主も知ってるでしょ?」
「っ〜〜〜!!!!」


言葉にならない叫びが出る。
私はいてもたってもいられなくなり立ち上がってその場を去った。
とりあえず彼から逃げたかった。
庭では相変わらず短刀達の楽しそうな声が響いている。
後ろからは私を呼ぶ清光の声。
その後、清光がこっ酷く私に怒られた事はいうまでもない。





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