Short Novel

□・君を近くに感じたい
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付き合ってもう半年経つっていうのに、
俺たちはお互い敬称を付けたまま呼んでいる


ベッドの中で愛し合っていて、
意識があやふやなときは『義人』って
読んでくれるけど、普段じゃ絶対に
呼んでくれない


・・・俺も彼女のことは『美季ちゃん』
って呼ぶことの方が多いからなんとも
言えないけど
家の中でならたまに『美季』って呼ぶ
愛し合っているときはもちろん
『美季』って呼ぶけど


キッチンで夕食を作る彼女
どうしても今、名前を呼んで欲しくなって、
それまで読んでいた本をテーブルに置き、
彼女のもとへ向かった


後ろからそっと抱き締め、お腹に手を回す




「義人くん?どうかした?」


「・・・名前」




名前を呼んで欲しくて抱き締めたのに、
今さら恥ずかしくなって素っ気なく答える




「名前?名前がどうかしたの?」

「・・・呼んで」




いまいち状況が掴めず、戸惑う表情を見せる




「義人くん?」

「・・・そうじゃなくて」

「そうじゃないって・・・じゃあ、どう呼ぶといい?」


「・・・義人、って呼んで」




自分で言っておきながら恥ずかしく
なってきて、耳が熱くなるのを感じた




「義人?どうかしたの?」

「・・・どうも、しない」

「そっか。もう少しで夕飯出来るから
待ってて」

「・・・うん」


「ふふ」




突然腕の中で美季ちゃんが笑い出す




「・・・なに」




突然笑い出す彼女に、むすっとそながら少し怒ったような口調で聞き返す




「なんだか、義人くんが甘えてくれてる
みたいで可愛いなって思って、ついね」



俺は別に可愛くなんてない
可愛いのは君の方だから・・・


でも、君に可愛いと言われて悪い気はしない
むしろちょっと嬉しい気もした




「俺は別に可愛くない」




照れ隠しに項にキス




「ひゃっ・・・よ、義人くんっ・・・!」




不意打ちのキスに動揺しまくる彼女の首筋にキスの嵐を降らせる




「ちょっと待って・・・っこれじゃ、
夕飯作れないよ・・・っ」

「・・・それなら、これからは俺のこと
義人って呼んで」



わざと耳元で息を吹き掛けるように話す


「わ、わかったよ・・・っだから、耳元で話すのやめて・・・っ」



耳の弱い美季には効果絶大で・・・



「・・・美季の反応が面白くて、つい」



くすりと笑いながら耳元で話し続ける



「そんな意地悪ばっかりする人にはご飯
あげません」



ふいっと顔を背け、怒ったふりをする
そんな美季も可愛いけど、さすがに
美季の美味しいご飯を食べられないのは困る



「・・・美季、ごめん」

「ふふ・・・冗談だよ?」



無邪気な笑みで俺を見つめる
それはまさに、いたずらが成功した子供の
ようで・・・



「・・・俺のこと騙したの?」

「たまにはいいでしょ?はい、
ご飯できたから運ぶの手伝ってくれる?」

「わかった・・・でも、さっき俺のこと
騙したから、今夜は『お仕置き』だから。
覚悟しといて」



耳打ちするようにそっと囁くと
『お仕置き』を想像して顔を真っ赤に
染めていた



「よ、義人っ!」

「・・・冗談。でも今夜もたっぷり愛して
あげるから」



ただでさえ真っ赤な顔をこれ以上ないくらいに真っ赤に染める



「・・・ご飯、食べよう?」



何事もなかったようにしれっと答え、
テーブルについた



「もう!義人ってば!」



怒りながらもテーブルにつく彼女



怒る君も俺には可愛くてしょうがない

それに敬称がなくなるだけで、
君がいつもより近く感じられる
それが俺には嬉しくて堪らなかった



そのうち、家の中だけじゃなくて外でも呼び捨てで呼び合えるようにするから




この日を境に、家の中や2人きりのときは、呼び捨てで呼び合うようになった

さすがに、メンバーの前ではまだ
以前のままの呼び方だけど、
そのうちメンバーの前でもそう呼んで欲しい


いつだって君を身近に感じていたいから・・・


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