Long Novel

□・Destiny
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それから数日後
撮影も順調に進んでいたある日のこと


「本多さん、お疲れ様です」

「ああ、小野屋くん。お疲れ様」


共演者の小野屋海人が声をかけてきた
これといって親しいわけではないが、
以前別なドラマでの共演経験もあるし
今回だって準主役というポジションで
俺との絡みも多い
そして美季ちゃんファンであることを
明言している人物でもある
ある意味では、警戒すべき人物として
認識していた


「そういえばご存知ですか?美季さん
って平気で二股かけるような人だって」


すれ違い様、ふと足を止め、耳を疑う
ようなことを言い出した


「は?」

「本多さんって美季さんとお付き合い
してるんでしょ?それにしても気の毒
ですね。まさか、ご自分の彼女が二股
してるなんて思いもしないでしょう」


唐突なことを言い出す彼
あまりにも信じがたい話に呆然として
つい、小野屋くんの方を振り返った

俺たちが付き合ってることはお互いの
マネージャーと家族にしか教えてない
それならば、小野屋くんはそのことを
どこで知ったというんだ?
話の出所を調べて口止めをしなければ
恋愛がご法度な芸能界でスキャンダル
なんてものは命取り
俺は事務所がなんとかしてくれるけど
美季ちゃんはそうもいかない
業界最大手事務所の看板アイドルと、
売れているタレントが、彼女ひとりと
いう弱小事務所では世間やマスコミの
餌になるのは確実に美季ちゃんの方

それに、美季ちゃんが二股?
そんなの、天地がひっくり返ったって
有り得ないことだというのに
現に数日前だって、仕事終わりに俺の
部屋に来て、一緒に夜を過ごした
よく、仕事に関するメッセージだって
やり取りしていて、だいたいだけども
どこの局にいてなんの撮影をしている
かも把握している
時間がある日には、家で弟の真くんと
一緒にお菓子を作ったりして、作った
お菓子の写真だって送ってくれて
もちろん、次に会ったときには作った
お菓子を持ってきてくれて・・・

それなのに彼女が二股?
一体どうやって?

彼女の日常生活の様子を聞き、情報と
照らし合わせる限り、そんな暇はない
筈だし、最近テレビにひっぱりだこの
彼女が、俺以外の男と逢瀬をする時間
なんてある筈もないのに・・・
いや、逢瀬をする必要がない人物だと
しらた、話は別だ
となれば彼女に怪しまれずに近づける
人物なんて限られてくる
今のところ疑わしいのは美季ちゃんの
マネージャーの山田さん
美季ちゃんの唯一のプロデューサー、
JADEの神堂さん
神堂さんがプロデュースしてるという
ことに託つけて近づける同じくJADEの
リーダー折原さん
ことあるごとにスキンシップをはかる
水城さん
そして井上さんだって他のメンバーに
比べて接触は少ないが、可能性として
ゼロじゃない
一体誰だというんだ

一体、その相手は誰かと、必死に頭を
悩ませていると、小野屋くんは何でも
ないようにさらっと答えた


「同じWaveの藤崎さんとも付き合って
るんでしょ?この前、俺の前で堂々と
宣言していましたよ?よくそんな人と
付き合えますね」

「それは・・・何かの間違いじゃないか?
義人に限ってそんなことは・・・」

「本人は否定しませんでしたけど?」

「君の誤解だと思うよ?美季ちゃんは
二股なんてできる子じゃないから」

「美季さんと付き合ってることは否定
しないんですね」

「小野屋くんは一体どこでそんな噂を
聞いたんだ?」

「噂じゃないですよ。事実でしょう?
それにどこでこの話を知ったかなんて
簡単に話すわけないじゃないですか」

「分かるだろ?例え噂であっても事実
だったとしても、そういう話はマズイ
ってことくらい」

「やっぱり、否定はしないんですね。
普通ならば、美季さんに男がいたのか
っていう話になる筈なのに、二股の話
ばっかりして、必死に弁明してたじゃ
ないですか。それって、美季さんとの
関係を認めたってことでしょう?そう
じゃなければ、遠回しに『俺の彼女は
そんなことする子じゃない』だなんて
言いませんよね?」

「だから、今はそういう話を・・・」

「あ・・・美季さん」


小野屋くんの呟きに振り返ると、そこ
には美季ちゃんがいて・・・


「今の話・・・なんですか?」


訝しげな表情で俺たちを見据える


「何でもないよ。小野屋くんが、変な
誤解をしていただけだから。そろそろ
撮影始まるから戻ろうか」

「・・・はい」

これ以上、この場にいる必要はないと
思い、納得のいかなそうな顔の彼女と
その場を離れた



「今の話を聞かれていたとはねぇ・・・
さすがにちょっとまずいなぁ。これで
随分と風向きが変わったなぁー。あの
タイミングで、美季さんが来る
なんて」


そんな彼の呟きが、俺たちの耳に届く
ことはなかった



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