氷帝中心[SS]

□純潔未遂〜強姦魔は突然に〜
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 夕飯の支度を終えた母が慌ただしく家を出てから、俺と西園寺のぎこちない雰囲気が部屋を重くする。
 
 「それにしても、大きくなったね長太郎くん。今身長いくつ?」
 「……185です」
 「凄いねぇ、前に見た時なんて、私の肩くらいまでしか無かったのに。今では私が長太郎くんを見上げている」
 「あはは……」
 
 適当な愛想笑いでその場をしのぐが、きっと気づかれているはずだ。
 適当に理由を作って、西園寺のいるリビングから離れようとしたその時、突然歩み寄って来た西園寺に手を取られる。
 
 「え、何を……っ」
 「大きな手だな、って。前に見た時は小さくて柔らかくて、でも細い指で……。今も細くて綺麗な指だし、やっぱりピアノに向いてる」
 「そう、ですか……」
 
 自分の指と西園寺の指が絡まる。時には握られて、包まれる。
 怖い、どうして長々と触れられているのか。
 
 「怖がらないで、リラックスしてごらん」
 
 宥めるような声で耳元で囁かれ、思わず体をビクリと跳ねさせる。耳元に触れた熱い吐息のせいで、体が固まって思うように動けない。
 
 「怖がってなんて……」
 「いいから」
 
 指を絡められたまま、西園寺は俺の耳孔を舌先で舐める。その強烈な違和感に、俺は情けない声を上げて抵抗する。
 
 「やっ、はぁ……っ、西園寺、さんっ……」
 「可愛いねぇ、身体をビクビクさせて。……もっと鳴かせてあげようか」
 「嫌っ……、やめてください、俺っ、男ですから……っ!」
 
 大方突き飛ばすような勢いで西園寺から離れ、俺は自分の部屋へと入り、鍵を閉めてベッドに潜り込んだ。
 男なのに、それに体格だって可愛いと言えるものではないのに、手を出されたという事実。
 
 「っ……気持ち悪い……」
 
 幼い頃から嫌いだったあの視線の正体が、このような形で現れるなんて、思ってもみなかった。
 耳元に吹きかけられた吐息の熱さも、耳孔を舌先で刺激された感覚も、まるで自分を苛むかのように消えてくれない。
 
 (リビングに戻るのが怖い……)
 
 下手に戻るとまた手を出されかねない。そう思うと、リビングに近づくのが恐ろしくて堪らない。
 
 (お父さん、早く帰って来て……)
 
 そう心の中で強く願い、首から下げていた十字架のネックレスを握った瞬間。


 「長太郎くん」
 「っ!!」
 
 西園寺の声がしたのだ。それも、近くから。
 
 「長太郎くん、起きてるよね」
 「っ……」
 
 怖い、声が出ない。きっと扉の前だ。
 心臓が煩くて、西園寺に聞こえてしまうんじゃないかと、猛烈に不安になる。
 
 「さっきはごめんね、長太郎くんを怖がらせてしまったみたいだ」
 「……」
 「許して欲しいんだ。ほら、出てきて一緒にご飯を食べよう。もう何もしないって誓うよ」
 
 そんなの信じられない。普段から人を疑わないため、良い人だとか、お人好しだとか周りから言われる俺でも、こればかりはどうしても疑ってしまう。
 
 「言いそびれてたけど、実は長太郎くんへプレゼントを持ってきてたんだ。それも渡したいし、さぁ、出ておいで」
 
 あぁ、きっと俺が出てくるまで意地でもそこにいるつもりだ。
 観念した俺は重い腰を上げ、ベッドから起き上がる。ソロソロと床を歩き、鍵を開けて扉を少し開いた。
 やはり扉の前には西園寺が立っており、開いた扉の隙間から俺を見つけるや否や、満面の笑みで微笑んだ。
 
 「ごめんね、もうあんな事しないから」
 「……」
 
 警戒心を張り巡らせたまま、俺と西園寺はリビングへと向かった。
 テレビはつけっぱなしで、この嫌な雰囲気とは似つかわしいくらいに、明るく楽しいバラエティー番組が流れている。
 ソファでは何も知らない飼い猫が、ただスヤスヤと眠っていた。
 
 (いいなぁ、フォルは気楽に眠れて)
 
 いつもより手の込んだ夕飯が並べられた机に西園寺が先に座り、夕飯を見定めるように眺めていた。
 俺は自分の分と西園寺の分のお茶や取り皿を用意し、机の上に置いてやる。
 
 「ありがとう、気が利くねぇ」
 「いえ……」
 「警戒してる、か……」
 
 独り言のように呟いた西園寺を無視し、箸を進める。
 早くここから逃げ出したいものだ。西園寺と向かい合って食事を取っているせいで、美味しい食事も台無しだ。
 
 「美味しいね、いつもこんな素敵なものを食べてるの?」
 「……今日は張り切ってるみたいですけど」
 「へーぇ……」
 
 淡々としたつまらない会話が、重い雰囲気の部屋を更に悪くしていく。
 食べている間だって、西園寺からの視線はチラチラと感じていた。
 
 (この人、ゲイなのかな。……別に偏見を持ってるわけじゃないけど、友人の息子に手を出すなんて……)
 
 「ごちそうさまでした……」
 「おや、もういいのかい?」
 「……ちょっと胃の調子が悪くて」
 
 早く部屋に戻りたいがために、適当に嘘をついて誤魔化した。
 本当はもっと食べたかったし、出来るならゆっくりと味わいたかったと言うのに。
 落胆した気分で皿をキッチンへ置き、西園寺を視界に入れずに部屋へと戻る。
 
 扉を閉めて鍵をかけると、俺は項垂れるようにベッドに腰掛ける。
 本当に何もしてこなかった。……それでも、怖いものは怖い。
 また手を出されるんじゃないかという恐怖心が、頭の中でグルグルと回り続けた。
 
 「長太郎くん」
 
 再び扉の向こう側から聞こえる声。穏やかな声で、俺を呼んでいる。
 
 「猫ちゃんが水を撒いてるんだけど、何か拭くものってあるかな?」
 
 予想外の発言に、俺は怯えながらも扉を開ける。すると、どこか困ったような表情の西園寺が立っていた。
 
 「……俺が拭きます」
 「本当に気が利くねぇ。助かるよ」
 
 西園寺の横をすり抜け、洗面所からタオルを一枚取り、飼い猫のいるリビングへ向かった。
 確かに水を入れてある器からは水が零れているのだが、フォルトゥナータは今まで水の失敗などしたことが無い。
 
 (わざと……だったら気味が悪いな)
 
 西園寺がこちらを見ていることに気づきながらも、俺はタオルで水を拭き取る。
 チラリと時計を見ると、現在の時刻は20時5分……。
 何時に父が帰ってくるかは分からないが、あの母の慌てようを見る限り、きっと日付が変わる頃まで帰って来ないのだろう。
 
 「長太郎くん」
 
 突然名前を呼ばれ、ビクッと身体を跳ねさせてしまった。
 
 「は……はい」
 
 西園寺はソファに置いてあった自身の荷物の中から、どこかのショップ袋を取り出す。
 可愛らしい黒と白のストライプの背景に、ピンクのレースリボンがついているという、西園寺が所持するにはあまりにも似合わない代物だ。
 
 「プレゼントだよ。お風呂に入るまで見ちゃダメだよ」
 「は、はぁ。……ありがとうございます」
 
 俺が持っても似合わない可愛い袋を受け取り、引きつった笑顔で礼を言う。
 風呂まで見てはいけないなんて、怪しすぎる。
 
 「もうお風呂に行っちゃいなよ。後で話したいことがあるんだ」
 
 西園寺は平然と話すが、この状況で風呂になんて行きにくい。
 第一、何をされるか分からない。
 
 「ほら、行ってきなよ」
 
 グイグイと背中を押され、俺は無理やり脱衣場まで押し込まれてしまった。
 
 「あのっ、着替え取ってこないと……っ」
 
 これを口実に部屋に引きこもろうと思っていたのに、西園寺はにんまりと笑う。
 
 「その袋の中に入ってるよ」
 
 そう言い、袋に指を指した。あぁ、もう逃げられない。
 そう確信し、脱衣場で立ったまま俯いた。
 
 「どうしたの、早く脱ぎなよ」
 「脱ぎなよって……えっ!?」
 
 なんと、隣で西園寺が脱ぎ出しているのだ。
 身体中に生えた体毛が草原のようで、思わず凝視してしまった。
 
 (まさか、二人で入るのか……!?)
 
 着々と服を脱いでいく西園寺は、何も脱がない俺を伺うように、何度もチラチラと見ている。
 
 「背中を流して貰おうかな。長太郎くん、一人じゃ服も脱げないのかい?私が手伝ってあげよう」
 
 上着をたくし上げられ、身をよじって抵抗をする。嫌だ、脱がされる……!
 
 「綺麗な身体……。白くて、筋肉もついていて、すべすべで。早く全部見たいなあ」
 
 ズボンを下着ごと下ろされ、つい小さな悲鳴を上げる。
 大事な部分が西園寺の前に晒され、俺は羞恥心のあまりに死にたくなった。
 
 「なぁに、男二人で風呂に入るだけだ。……何かされるとか考えているのかい?いやらしい被害妄想はやめるんだね」
 
 いやらしい、って……。先に仕掛けてきたのはそっちのくせに……。
 丸裸になった西園寺は、俺が全て脱ぎ終えるまで風呂に行かないみたいで、ずっと仁王立ちでこちらを見つめていた。
 
 (もう、やるしかないんだ……)
 
 上着を脱ぎ、履いているものも全て脱ぎ捨て、俺は西園寺の前で生まれたままの姿になった。
 
 「綺麗だねぇ……、さっ、先に中に入って」
 
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