氷帝中心[SS]

□扇子
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『日吉、・・・別れようか』
 
 デートの別れ際に鳳から突然告げられた別れ。俺は嫌ながらも、鳳の気持ちを尊重し「分かった」とだけ言った。最後の最後まで強がったが、あいつの姿が見えなくなった途端に、両目から涙が溢れ出してきた。
 
 涙は幾ら流しても止まらないのだ。
 
 残暑が残るこの季節、俺は鞄に入っていた扇子で顔を隠した。そして、涙が渇くように何度も何度も扇いだが、とめどなく溢れる涙は全く渇きやしなかった。ここはまだ外だというのに、ボロボロと溢れる涙。こんな酷い姿、決して見られてはいけない・・・。
 
 (俺は強いんだ)
 
 精一杯の強がりで自分を奮い立たせようとしても、やはり本心とは裏腹に止まらない涙。
 
 (何が悪かったんだ)
 
 走馬灯のように甦る記憶たち。俺の隣にいた鳳は、いつも笑っていたくせに。
 
 (何が悪いんだよ)
 
 扇子のせいで足元が見えずに、小さな段差に躓く。どうにか倒れずには済んだが、人混みの中で扇子を持って地面に手をつく日吉に、通行人はチラリと目線を向けては逸らした。今日は特に日差しが強い。俺の心はこんなにも曇っているというのに、まるで嘲笑うかのように晴れているのだ。
 
 腹が立つくらいに澄んだ綺麗な空に、白い雲
 

 
 こんなに晴れているなら
 

 
 声を上げて泣けない


 
 「なんで俺から離れるんだよ・・・」
 
 少し愚痴をこぼし、立ち上がる。この暑い日差しと日吉の悲しみは、もう暫く続きそうだった。
 
 
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