氷帝中心[SS]
□窮屈な世界でお前と
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「どういう事か説明できるか、宍戸」
宍戸と鳳は放課後、練習に行かずに直接榊監督に個室に呼び出されていた。
「それは……」
口ごもる宍戸と、何も言えずにただ俯く鳳。二人が座る目の前の机には報告書のような紙が数枚並べられ、対面する形で榊は座っていた。
榊は苛立った様子で報告書を指でトン、と叩く。その中には、近所の住民から寄せられた苦情が綴られているのだが、そこに書かれている内容は――……
「手を繋いだり、まるで恋人同士のような振る舞いをしている、道でキスをしているところを目撃した、など。生徒からの報告でお前達二人と分かったが……、男同士で何をしている」
榊は氷のような目線で、静かに焦る二人を睨む。同性愛に厳しすぎるこの世界で、愛し合う宍戸と鳳が生きていくのはとても窮屈だった。
「男同士で気色の悪いことを、よくも外で出来るな」
「監督、これは誤解です。俺達がふざけていた所をそう思われただけだと……」
何とか思いついた出任せを宍戸は述べ、これで納得してくれるだろうと浅はかな希望を持ったところで、榊が立ち上がった刹那
パアアン
激しく弾けたような音と共に宍戸が見たのは、鳳の頬を平手打ちした榊の姿。隣に座っていた鳳は頬に手を添え、涙目になっていた。
「長太郎!!大丈夫か!?」
突然暴力をくらった恋人の肩を掴み、顔を覗き込む。綺麗な顔には真っ赤な跡がついていた。
「監督、一体何を!!」
怒りに身を任せ立ち上がった宍戸を見た榊は、勝ち誇ったようにほくそ笑み、「やはりな」と呟いた。
「そうやって心配するという事は、お前達はやっぱり……」
「いきなり暴力なんて誰だって……!」
「し、宍戸さん!俺は平気ですからっ……」
ふと鳳を見ると、涙目で何かを訴えるように宍戸を見つめていた。宍戸は奥歯を噛み締め、静かに座り直した。
「氷帝学園の評価を下げられるのは困るんだ。二人は暫く練習に来なくていい」
「そ、そんな……」
「宍戸だって嫌だろう。今頃部員の大半がお前達の噂をしているに違いない。気色の悪いゲイだとな」
もう言い返す言葉も見つからず、二人は榊の話を受け入れる事しか出来なかった。
「長太郎、ほっぺた痛むか?」
「はい……、まだズキズキします」
練習に行くことも出来ずに、二人は帰路についていた。まだ赤い頬を押さえる鳳は「宍戸さん」と小さく呼んだ。
「どうした?」
「……世間がどんなに厳しくても、俺は、宍戸さんと一緒が……いいです」
大きな目に涙を溜め、途切れ途切れで発してくれた言葉。宍戸は強く頷き、
「何があってもお前と離れねぇし、離さねぇよ」
と、鳳の手を取って歩き出した。